■ピーチボーイ![2巻]

参拾参「初雪」
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旅道中 参拾参ノ巻
「初雪」
―――――――――――

僕達は美濃(みの)の国入りしていた。

美濃と信濃(しなの)の国の国境に股がる木曾の山々を越えるための、山越えの準備をするべく、美濃の国のとある都に訪れていた。

ここまでの道中の間、鳰の海で出会ったおとぎ人の青年のように妖怪化してしまうおとぎ人と、何度か合間見えてきたが、神力は使えない上に、他に打つ手も無く、僕達は彼らを救うことが出来ずにただただその場を離れる事しか出来ないという悔しい思いを何度も何度も味わってきた。

…いつになったら、あの人達を救えるのかなぁ…?

そんな事を考えながら、僕の沈んだ気持ちとは正反対な、賑わう都を歩き続ける。
空を見上げれば、日は傾き始めていた。


一通り、山越えのための装具を買い揃えた僕達は、あらかじめ取っておいた宿屋へと向かう。

――――――――――――

「はぁー…。
明日はいよいよ山越えかぁー…。桃ちゃん、今日は早めに寝ときなさいよー!?すぅ〜ぐ疲れちゃうんだもん、桃ちゃんはー。」

宿に着き、たくさんの荷物を、ドカッと床に置くと、千宵は開口一番にそう言った。

「わ、分かってるよっ!
…それに、いざとなったら佐々海におんぶ―――」

「こ〜ら。
これから鬼退治をしようって人が、そんな甘えてたらだめだよー?」

佐々海に向け願おうとしたが、間髪いれずに八彩に遮られた僕は、うっと肩を浮かす。

ー…八彩さん、意外と厳しいんだね…。

僕が、ははは…と苦笑していると、八彩はニッコリと微笑む。
その笑顔が眩しすぎるのは気のせいではない。

一方の佐々海はと言うと、

「…私は、桃太郎殿がお疲れの時はいつでもおんぶしますよ…。それに、小娘も…。
あー、八彩は駄目だからな。」

そう、ぶつぶつと呟いていた。

やったー!!
佐々海はああ言ってるし、疲れたらおんぶしてもらっちゃおう!

僕は、ニシシッと笑い、まだ途中だった明日の準備に取り掛かる。

隣で八彩は、やれやれと苦笑していた。

――――――――――――
― その夜 ―

夕食を済ませ、皆で団らんしている時だった。

急に何かを察知したような素振りをみせ、千宵は、すくっと立ち上がるや否や間戸へと向かった。

「どうしたのっ?千宵?」

僕はすぐさま千宵の後ろ姿に問いかける。

「雪!雪の降る音がする!」

千宵ははしゃぎ、嬉しそうにそう答えると、ガラッと間戸の戸を開けた。

僕達の目に飛び込んで来たものはー…、初雪…。

「うわー…!雪だ!今年初めての雪だ!」

僕は幼い子供のようにはしゃぎながら、千宵の後を追い、同じく間戸から身を乗りだし外を見る。

しと…、しと…、しと…。

まだ降り始めの雪は、一つ一つが白い光の粒のようで神秘的だ。

「…ったく。まだまだ子供だな、小娘は…。」

そう呟く佐々海だが、ちゃっかり初雪を見に間戸から外を見る。

なんだか、うずうずしてる?
なんだ!佐々海も初雪に胸踊ってるんじゃないか!

「…初雪かぁー…。
もうすっかり、冬真っ只中なんだねー…。

思い返せば、私達が出会ったのは秋の中頃…。
もう長い事一緒に旅を続けて来たんだね、私達。」

八彩は間戸から見えるひらひら降る雪を見て、フフッと柔らかな笑みを浮かべ、そう述べた。

ー…そうだね。
僕達がひょんな事から出会い、仲間になり、旅を始めて、もうそんなに時が経つんだ…。

「みんな…。僕、みんなと仲間になれて良かった…。
みんなで、良かった…。」

「桃太郎殿ー…。
それは私達も同じ気持ちでございます。
あなたに出会えて、幸せです。」

佐々海はそう言うと、彼にしては珍しくフワッとした優しい眼差しで微笑む。

こんな佐々海の表情、出会ったばかりの頃からは想像もつかないな…。
決して笑わなかったって訳じゃないけど、佐々海は武士の名家の出、どこか堅苦しかったね、真面目すぎだったし。

でも、佐々海はいつも僕を守ってくれて、そして弱虫な僕のそんな所が優しさで、そしてそれが強さだと言ってくれた。
その言葉に僕は勇気を貰ったんだ…。

ー…それに、犬もふもふー…。

あ、最後のはあくまでもおまけであって!

…とにかく、今まで本当にありがとう。佐々海!
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