■ピーチボーイ![2巻]

参拾壱「失恋狸の分福茶釜!【上】」
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旅道中 参拾壱ノ巻
「失恋狸の分福茶釜!【上】」
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昨日の一件後。
僕達は鳰の海の畔の宿に泊まり、そして朝を迎えた。

宿から見る朝の鳰の海は、とても素晴らしい。

色々な考え事で眠れず、頭の中がぼんやりしていたけど、鳰の海に朝日が映りこむ絶景を見たら、頭が一気にすっきりと冴え渡った気がした。

―…皆を幸せにする…。うん…!

僕は手に力を込めた。

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朝食が部屋に運ばれてきて、僕達は昨日の事を話ながら箸を進めていた。

「おとぎ人が妖怪みたいな鬼みたいな姿に変化するって…、一体どういう仕組みなんだろう…?」

僕は箸を持ったまま首を傾げる。

「うーん…。
仕組みまでは分からないけど、“鬼みたいな姿”に変化するんだ、鬼が何か手を加えた…、と捉えていいだろうねー」

そう答える八彩に対し、他の二人も頷く。

「…そうかー…。
鬼の持つ力は、まだまだ謎だらけで分からないね。

それに…。
…もし、みんながああなっちゃったら…って考えると、僕怖くて堪らないよ…」

僕はそう震えた声で言う。表情は不安感で歪んでいる。

そんな僕を見た三人は、そんな僕と反して明るくフフッと笑みを浮かべ、

「大丈夫だよー、桃太郎。
君は何度でも紅梨の時みたいに私たちを助けてくれるんでしょう?」

八彩は、クスッと更に優しい笑顔を向けた。

「あの時みんなを助けられたは神力の力のおかげなんです!
今回みたくなったら、神力で救うことが出来ないし…」

「…あの時、紅梨の手にかかった私たちを助けてくれたのは、神力じゃなくて“桃ちゃん”でしょ?

もー…。何も分かってないのねー?桃ちゃん」

千宵はそう明るく言うと、佐々海の皿の焼き魚を不意に奪う。

ヒョイッ。

「ああーーーっ!!小娘ぇっ!!
最近大人しいからと思って大目に見てのだぞっ!!
やはりお前は厳しくしつけなくてはいかんようだな…!
…俺の魚、返せっ!!」

佐々海は勢いよく箸を御膳に置くと、千宵の頭を鷲掴みにしてグラグラと揺さぶった。

「いやふぁよ。もう食べちゃったー」

ごくんっ。という飲み込み音の後、そう満足そうに答える千宵。

そんな千宵に、佐々海は今度は彼女の首を絞めにかかる。


―…ちょっと前の…、
紅梨と戦う前の雰囲気だ…。

僕は喧嘩する千宵と佐々海を見て、ふとそう思った。

すると、

「…桃太郎?
君は、いつもの君でいなくては駄目だよ?
桃太郎のどこに、みんな惹かれて君についてきたんだと思う?」

八彩も、じゃれ合うように喧嘩をする千宵と佐々海を微笑ましく見守りながら、不意に僕にそう告げた。

「君の純粋で無垢で、ありのままの自然体な姿。
そこに私達は惹かれたんだ。

だから…。
…君には、何も背負って欲しくないなー…、ってねー!」

「…八彩さん…」

八彩の言葉が、僕がここ数日間、自分の中に閉じ込めてしまっていた感情を思い出させてくれた。
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