ドラゴン*アスタリスク‐anc‐
□第2話:世界へ…
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第2話:
世界へ…
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「本当に何も知らないのね?シエカ」
アロの村を出て歩き続け、一時間の刻が流れた頃、
アロはおもむろにシエカの顔を見つめ、そう訊ねた。
シエカは深く頷き、アロにこう言葉を返した。
「三進竜とは、一体なんなんだい?」
シエカが気を失っていた時に、村にやって来た三進竜の一体「ミュー」の話をしようと、
アロは三進竜の話を持ち出したのだが、
シエカにはちんぷんかんぷんであった。
世間では、子供から大人まで誰もが知っている存在を知らない者がいたことに、
アロは本当に不思議に思った。
「しょうがないわね―…、教えてあげるわ。
三進竜はね、五賢竜の代わりに、この地球を守ってくれている竜の事よ」
それを聞いたシエカは首を傾げた。
「五賢竜?」
シエカは聞き返した。
それに対し、アロは深いため息をつき、こう返した。
「きりがないわね…。
五賢竜まで知らないとは…。
五賢竜はかつて地球を守ってくれてたのよ。
今はもういないけれどね。
まぁ、ミドの町で詳しいことを知ればいいわ」
同じく、子供から大人まで誰もが知っている一般教養用語「五賢竜」という名を知らないシエカに、
アロはついにはおかしく思えた。
見事だと。
「さっきから気になってたんだけど、三進竜も五賢竜も、一体何から地球を守っているんだい?」
シエカはさらに首をかしげ、訊ねた。
「荒ぶる父よ。
私たちの地球を、無差別に壊すの。
とても怖くて恐ろしいって言われているわ。
あなたが目を覚ます前にも、荒ぶる父が空から隕石を落としてきた。
けどちゃんと、三進竜が来て隕石を消し去ってくれたけどね!
そう、三進竜がいる限り荒ぶる父なんてぜんっぜん怖くないわよ!
それに、現代には荒ぶる父はもういないんだよ!」
アロは大きな空を見上げ、そう言った。
シエカは納得すると、
辺りに咲き乱れる美しい花を見つめた。
自分は世界を何も知らないし、覚えていないが、
けど感じるものがある。
それは、自然の、地球の美しさである。
流れる透き通った空気、
それに乗るようにたまに吹く風、
それに合わすように揺れる植物。
歩くと感じる大地の感触、
大地にしゃがんだ時の土の香り。
すべてが繋がるように存在する物質。
その中には常に愛が溢れ、
すべての生命に注がれている。
…まるで母のように。
シエカも、この地球は傷付けたくないと思った。
そして、この美しい地球を傷つける“荒ぶる父”という存在を聞いた時、
怒りに似た感情を抱いた。
しかし、その怒りの感情が込み上げた瞬間、
心臓(こころ)の奥が、
ドクッと響き、
軽い胸の痛みを感じた。
今のが何だかは、分からなかった。
「父の話だと、荒ぶる父はもういないって言ってるけど、
だったらどうして地球災害が起こるのかしら?
まっ、考えても仕方ないわね!どうせ三進竜が守って下さるもの、関係ないわ!」
アロは少し考えたが、
すぐに考えるのをやめ、
歩く速度を速めた。
シエカは、さっき痛んだ胸をそっと押さえ、アロの後を慌てて追いかけていった。
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気が付けば、辺りの景色は変わっていた。
村を出発した頃は、
広大な草原が広がっていたが、
話こんだりして時間が経ち、辺りの景色はがらっと変わり、
緩やかな山岳が目立つようになっていた。
そういえば、ちょっと息苦しいなと、二人は思った。
そして、それから約一時間歩った頃、
前方に険しい大きな山が見えてきた。
アロが言うには、
それは“火山”と言い、
五賢竜が荒ぶる父を倒す前の時代の時は、
山頂が火柱を立てて爆発していて、それを“噴火”と言うらしい。
その噴火により、火山は溶岩、火山弾、火山灰、土石流を出したりして、
周辺の生物を苦しめていたそうだ。
そんな火山のふもとに、
ミドの町があるということだった。
三進竜がいる限り、
三進竜は、火山が噴火する予兆を出したらすぐに防いでくれるため、噴火することはまずありえない。
アロはその思想が生まれた時から備わっているから、
火山のふもとの町に行くのに抵抗は無い。
しかし、シエカはこの世界の一般常識や知識をまったくもって知らず、
世界観が掴めていないため、
ミドの町に行くのがちょっぴり恐ろしくなってしまった。
三進竜が守ってくれる、という思想があれば、そんなことは無いのだろうが。
後ろからアロに押されるように歩き、
ついにミドの町へと辿り着いた。
古代からの地球の成り立ちのすべてを知ることの出来る、
この町に。