ドラゴン*アスタリスク‐anc‐

□第1話:それぞれの目覚め
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第1話:
  それぞれの目覚め
―――――

暖かな太陽のやわらかい光が降り注ぐ朝。

小鳥達は合唱し、楽しげな旋律を奏で、それに合わせるかのように通りすぎる風が木々をゆらしていく。


ここは豊かな草原が広がる地帯。

青々と生い茂る草や木、一つ一つどれも劣らない位美しい花。
見るものすべてが潤っている。

それはそうである。
この星は、太古の昔から平穏が約束されているのだから。

そんな豊かなこの草原地帯を足取り軽く歩いていく一人の少女がいた。

彼女の名は「アロ」。

淡い茶色の髪を肩ほどに伸ばし、髪は四方八方に広がるやや癖っ毛である。
鉄製の胸当てを身に付け、裾の短めの半ズボンをはき動きやすそうな長めの靴を履いている。

年の頃は17歳ぐらいであろうか。

彼女は、この草原の近くの村から村の食料を集めるためにここにやって来ていた。

アロの肩に下がる革のかばんの中には、草原でしか育たないネズミグリというネズミの毛の色をした小さな実が30個ぐらいに、真っ赤なグミ草の実がたくさん詰めてある。
これらはすべてとてもタンパク質が豊富な、立派な食材だ。

中でもネズミグリの実はとっても貴重で、これを茹でてこねれば五倍にも膨れ上がり、人一人の一週間分もの食料になるほどである。


いつもよりたくさんの実を手に入れたアロは、なんだか最高に楽しい気分になりいつもなら引き返す所を今日はどんどん足を進めていった。

父親にあまり遠くへ行ってはいけない、と言われていたがそんな事お構い無しである。

「今日はなんだか足取りが軽いや!
いつもならプレーリーウルフが襲ってこないかひやひやしながらだったもの」

アロはそう言うと、手をうんと伸ばし澄んだ空気を吸った。

そして、躊躇うことなくそのままどんどん突き進んでいく。


20分ほど歩き続けてアロは足を止めた。

目の前に広がる風景に驚愕、圧倒する。

「これは…。すごい……」
アロの見たものそれは、草原の真ん中に深い深い大地の裂け目が広がっている絶景であった。

恐る恐る首を出して覗いてみたが果てないほど深く、漆黒の闇である。
断崖は階段状に縦や横に何層にもなっている。

ドラゴン並の勇気でもあれば下に降りられるかもしれない、とアロは思った。

アロは暫く裂け目の絶景を見続ける。

そのうち、アロはある事に気が付いた。

「ん…、何か見える…。
あれは…、人…?
…あれは人だっ!!」

アロは一人叫ぶ。

なんと、裂け目の下の方の階段状の岩の上に人が横たわっている。

「大丈夫ですか――っ!?
返事をして下さいっ!」

何回か横たわる人物に向かい叫んだが、返答の声は返ってこなかった。

「大変だ…。きっと気を失っているんだ!
でも…もしかしてもう死んでるの…?」

アロは少しの間うろたえたが、すぐに立ち上がり裂け目の間に降りれそうな場所を探す。

すぐ近くに下に向かって階段状になっている部分があり、アロは生唾をごくり。と飲み込み、ドラゴン並の勇気で裂け目の中へと降って行った。

降って行く途中、何度か滑り落ちそうになりその度に肝を冷やすアロ。

横たわる人の所まで、あと少しであった。

しかし、最後の難関と言うべきかその人の所まで行く手段は、アロのいる足場から、向こうの足場まで跳んで行くしかなかったのだ。

再び生唾をごくり。と飲み込み、アロは助走をつけ大きく飛び上る。

タッ!

横たわる人のいる足場にみごと着地した。

「ひぇ〜…。良かったぁ………」

アロはガックリとその場に座り込む。
そして、横たわるその人を上から下へと見渡した。
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