SeventhBloodVampire
□消えないものだって、ある
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「は〜〜…」
大きなため息がこぼれた。
先生から突き付けられるように返されたテスト用紙。
自らの名前の横には、赤いペンで嫌味の如く、大きな「0」の数字が書かれていた。
「あらマシュー。その顔だと、また補習決定ね!」
「げっ、リズ…。」
幼なじみのリズには、一切隠し事ができない。
彼女いわく、俺は感情がすぐ顔に出るから、わかりやすいのだそうだ。
「そんなんじゃ、今度のキャンプには行けないんじゃない?課題に追われて大変でしょ。」
「そ、そんなことねーよ!俺が本気を出したら、課題なんて一日あれば十分だね!」
「へぇー、なんて頼もしいのかしらマシュー様!期待してるわよ?」
脇腹を小突かれる。
やり返したいけれど、怒らせたら面倒なので我慢する。
「まっ、課題の前に、放課後の補習、頑張ってね〜。」
ひらひらと手を振る彼女の笑顔には、たっぷりの皮肉が含まれていた。
「ちくしょ〜、補習なんてくそくらえだっ!」
罪もない教室の床を、思いきり蹴りつける。
「あ、そうそうマシュー。」
「なんだよっ!まだけなし足りないのか?」
リズがつかつかと歩み寄り、俺の顔にズイッと人差し指を突き付ける。
「明後日!…忘れてないわよね?」
「明後日?…なんのこと?…いてっ!」
そのまま額を指で思いきり弾かれた。
「あんたってば、ホントに脳みそ入ってるの?た、ん、じょ、う、び、でしょ!!レナの!」
「…ああ!そういやそうだった…あだっ!」
今度は頭上から、きつく握られた拳が飛んで来た。
全く、彼女は俺に対して本気で容赦がない。
「遅刻したら、どうなるかわかってるんでしょうね?レナも、あたしたちと会うの、楽しみにしてるんだから!」
鋭い一瞥をくれると、彼女はスタスタと立ち去って行った。
「あ〜、痛えな、も〜…。」
これ以上頭が悪くなったら、どうしてくれるんだ!
鈍い痛みを放つ箇所に手をあてながら、俺は心の中で叫んだ。
…本当は、忘れてなんかいなかった。
レナの誕生日を、忘れるはずなんてない。
ただ、昔からの性分で、リズの前ではついついとぼけたふりをしてしまう。
すっとぼける俺に対して、リズのツッコミはいつも的確だ。
レナは、そんな俺達のやり取りを見るたび、腹を抱えて笑ってくれる。
彼女の笑顔が見れるんだったら、俺は、叩かれたって、殴られたって、小突かれたって、首を絞められたって、平気だ。
……いや、首を絞められるのはさすがにマズイかも。
そんな事を考えながら、俺は目的地に向かってダラダラと歩いていた。
…今日は平日だから、空いてると思うんだけど…。
カラン、カラン。
店の入り口に取り付けられた小さな鐘が、訪問者の来訪を知らせた。
俺は恐る恐る店内に足を踏み入れた。
まさか、一人でここを訪れる日が来ようとは。
店に入るとすぐに、‘welcome!’と描かれた看板を掲げている、熊の置物と目が合った。
辺りを見渡すと、アンティーク調の家具が所狭しと並び、女性向けのアクセサリーや雑貨が陳列されている。
俺の予想は外れ、平日にも関わらず、店内はカップルや女性客で賑わっていた。
男一人でその中に紛れている自分が、なんだか恥ずかしく思えてきた。
こうなったら、とっとと用事を済ませて、さっさと帰ろう…。
そう決心したのはいいけれど、一体何を買えばいい?
こんなことなら、兄貴にアドバイスのひとつでも、もらっておけばよかった。