SeventhBloodVampire
□私の優しい狂人さん
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ぱんっ
何かが破裂したような音が、室内に響いた。
…まるで、膨らませ過ぎた風船が、弾け飛んだ音、みたい。
もうろうとした意識の中、レナはぼーっとそんなことを考えていた。
この部屋は、幼い頃から少女が過ごして来た場所だった。
クローゼットも、机も、椅子も、ベットも、以前と何ら変わりはしない。
ただ、唯一変わった所といえば、ベットの脚のひとつに取り付けられた、長い鎖。
少女の細い首には赤い首輪が付けられ、鎖はそれに繋げられていた。
ガチャリ…。
重く冷たいそれは、彼女が動く度、音をたてた。
「レナ、また‘食事’を残しましたね。悪い子だ。」
彼女の耳に、無感情な低い声が響く。
ベットの上でうずくまる少女の傍らには、空になったグラスが転がっていた。
恐らくはそれに入っていたと思われる、赤黒い液体が、白いベットカバーに鮮やかな染みを作っていた。
「…ごめんなさい…こぼしちゃったの…。」
小さな声でつぶやくと、ベット越しに立っている青年は、無表情のまま鎖を引き上げた。
耳障りな金属音と共に、少女の上体が無理矢理起こされる。
「ん、ぐっ…」
首輪が喉元を圧迫し、少女の口から
鳴咽が漏れた。
苦しむ彼女を心配する様子もなく、青年は冷たい視線を投げかける。
ぱんっ
衝撃に身を任せ、少女がベットに倒れ込んだ。
頬がひりひりと、熱を帯びている。
(そうだった…これは、私が、叩かれる時の音…)
「こぼしてしまった、と?」
再び鎖が引かれ、あごを掴まれる。
「いいですか、レナ。あなたに拒否するという選択肢はありません。血を飲まない冥使が、どうなるかわかりますか?干からびて、死ぬだけです。」
干からびて、死ぬだけ…
それも悪くない、と少女は思った。
死ねば、この痛みや苦しみから解放される。
あの世ではきっと、この世界で失った大好きな人達が、私を迎えてくれるに違いない…。
そんな少女の気持ちを読みとったのか、青年は少々声色を和らげて、ささやいた。
「…あなたはもっと、強くならなければいけない。孤独や自責の念から逃れることはできません。しかし、央魔となったあなたなら…その感情にさえ、打ち勝つことが出来るはずです。」