SeventhBloodVampire

□私の優しい狂人さん
1ページ/3ページ

ぱんっ


何かが破裂したような音が、室内に響いた。


…まるで、膨らませ過ぎた風船が、弾け飛んだ音、みたい。

もうろうとした意識の中、レナはぼーっとそんなことを考えていた。


この部屋は、幼い頃から少女が過ごして来た場所だった。

クローゼットも、机も、椅子も、ベットも、以前と何ら変わりはしない。

ただ、唯一変わった所といえば、ベットの脚のひとつに取り付けられた、長い鎖。

少女の細い首には赤い首輪が付けられ、鎖はそれに繋げられていた。

ガチャリ…。

重く冷たいそれは、彼女が動く度、音をたてた。


「レナ、また‘食事’を残しましたね。悪い子だ。」

彼女の耳に、無感情な低い声が響く。

ベットの上でうずくまる少女の傍らには、空になったグラスが転がっていた。

恐らくはそれに入っていたと思われる、赤黒い液体が、白いベットカバーに鮮やかな染みを作っていた。


「…ごめんなさい…こぼしちゃったの…。」


小さな声でつぶやくと、ベット越しに立っている青年は、無表情のまま鎖を引き上げた。


耳障りな金属音と共に、少女の上体が無理矢理起こされる。

「ん、ぐっ…」

首輪が喉元を圧迫し、少女の口から
鳴咽が漏れた。

苦しむ彼女を心配する様子もなく、青年は冷たい視線を投げかける。


ぱんっ

衝撃に身を任せ、少女がベットに倒れ込んだ。

頬がひりひりと、熱を帯びている。


(そうだった…これは、私が、叩かれる時の音…)


「こぼしてしまった、と?」

再び鎖が引かれ、あごを掴まれる。

「いいですか、レナ。あなたに拒否するという選択肢はありません。血を飲まない冥使が、どうなるかわかりますか?干からびて、死ぬだけです。」


干からびて、死ぬだけ…

それも悪くない、と少女は思った。

死ねば、この痛みや苦しみから解放される。

あの世ではきっと、この世界で失った大好きな人達が、私を迎えてくれるに違いない…。


そんな少女の気持ちを読みとったのか、青年は少々声色を和らげて、ささやいた。

「…あなたはもっと、強くならなければいけない。孤独や自責の念から逃れることはできません。しかし、央魔となったあなたなら…その感情にさえ、打ち勝つことが出来るはずです。」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ