SeventhBloodVampire

□甘美なる絶望を、君に
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「もうそろそろ、始めないとね。」

ナタリーという母親の皮を被った魔女が、つぶやいた。

こうして、彼女の長年の計画は実行に移された。


人間の血を与えられ続け、狂った少女は、毎夜もうひとりの自分の名を呼んでさ迷っていた。


…二人を、融合させる時が来たのだ。


しかし、問題がある。

今のままのレナでは、影を屈服させることなど到底不可能。

融合は失敗に終わるだろう。

計画を成功させる為には、レナを限界まで追い詰める必要が、ある。

追い詰められ、前にも後にも退くことが出来なくなった時、彼女の本来の力は発揮されるはずだ。


…その為には何が必要か??

私は常に考えを巡らせていた…。




「こんにちは!アーウィンさん!」

明るい声が部屋に響き、はつらつとした様子で少女が笑いかけてきた。

今日は勉強会だとレナが言っていたので、お茶を入れて運んでやったのだ。

「こんにちは、リズ。勉強は進んでいますか?」

「はい、今、レナがどうしてもわからないところがあるって言うので、教えてあげてたんです。」

レナは、リズの隣でノートを睨みつけ、ペンを握ったまま硬直していた。

「うう…わからない。どうしてこうなるのかしら?」

「だから、ここでこの公式を使うんだってば。」

二人はしばらく分厚い参考書とノートを見比べていたが、教えているはずのリズの顔が次第に曇りはじめた。

なんとなく嫌な予感がして、さっさと立ち去ろうとした私に、予想通りの声がかかった。


「アーウィン、
アーウィンさん、助けてっ!!」


…こうして、結局私が二人の面倒を見るはめになった。


レナは要領が悪かった。

なぜ、どうしてと、いつも必要のないことばかり気にして、結局答えが出せないのだ。

そんな彼女と比べて、リズは理解がはやかった。

私が与えるわずかなヒントから、すぐに答えを導き出した。

「…これで、合ってるかしら?あんまり自信がないんだけど…。」

驚いたことに、私でも、理解はしているが解説するのは少々厄介という問題を、彼女は解いてみせた。

レナに至っては、ペンを握りしめたまま、うたた寝している。

「素晴らしい。よく、頑張りましたね、リズ。」

ぽん、と軽く肩を叩いてやると、リズの顔がぱっと赤くなった。

…なぜそこで赤くなるのかわからなかったが、それほど解けたことが嬉しいのだろう。



「……やだ、もうこんな時間!レナ、私そろそろ帰るね。」

勉強会が始まってから、結構な時間が経っていた。

窓の外は、すでに深い青に染まっていた。

「すっかり暗くなっちゃったね。…アーウィン、リズを送ってあげて??」

時間がかかったのは、あなたの理解が悪いからですよ、と言ってやろうかと思ったが、そこは大人として一歩踏み留まった。

「…そうですね、最近は変な噂もありますし…。行きましょう、リズ。」

「あっ、は、はいっ!ありがとうございます!じゃあまたね、レナ。」

部屋の扉を閉めるとき、レナがリズにウィンクしているように見えたが…子供の考えや行動は、時々全く理解しがたい。

玄関を出ると、生ぬるい風が頬を撫でた。

いつもなら一人でぺらぺらと喋り続けるリズが、今は随分と静かだった。

私の斜め後ろを、無言で付いてくる。

「…リズ?」

「えっ!?な、なんですか?」

少女の顔を覗き込むと、考え事でもしていたのか、リズはひどくうろたえた。


「あんまりぼーっとしていると、襲われてしまいますよ。」

「そっ、そうですね。気をつけなくちゃ…。」
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