SeventhBloodVampire
□バスタイムをご一緒に
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明日の早朝、いよいよ三人で村へ出発するという夜。
フレディは大変なことに気が付いた。
彼はこの数日間、例の修道院に通い詰め、食事をほとんど取らず、睡眠時間も削っていた。
しかしながら、少年の若い体は回復も早く、レナの家でわずかな食事と仮眠をとっただけで、疲労はあっという間に消え去った。
そのせいか、彼は大事なことをすっかり忘れていた。
「俺…もしかして、いや、もしかしなくても、臭うよね?」
フレディは自らの赤いシャツを引っ張り、恐る恐る鼻を近付けてみた。
血液や汗の入り交じった、なんとも言えない香りが鼻腔をついた。
最後にシャワーを浴びたのは、いつだったろうか。
なにしろ、考えなければいけないことが多過ぎて、衛生面に気を使う余裕さえなかった。
「大丈夫よフレディ。臭いなんて、気にすることないわ。」
フレディの隣に腰掛けていたレナが、いつものふわりとした笑みを浮かべて答えた。
「……それってつまり、臭ってるってことだよね?そういう意味だよね、ねえちゃん?」
「心配しなくっても、フレディがちょっと臭うくらいで、私は嫌いになったりしないわ!」
「いやいや、そういう問題じゃ
ないから!にいちゃーん!俺、ちょっとバスルーム借りるね!!」
居間の奥へ呼びかけると、不機嫌そうな顔でアーウィンが入って来た。
「全く…お前という子供はどこまで図々しいんだ」
「いいじゃん。部外者がこーんな不潔な体で、ねえちゃんの隣に座ってるなんて、あんたには堪えられないでしょ?」
アーウィンはフレディとレナを交互に見やると、納得したように首を縦に振った。
「…たしかに、それは一理ある。廊下の突き当たりを左に曲がった所がバスルームだ。綺麗に使え。」
「オッケー!それじゃあねえちゃん、俺ちょっと行ってくるね」
そう言って立ち上がりかけた時、フレディの脳裏に、ふと疑問が浮かんだ。
「そういえば、ねえちゃんは?お風呂、入らないの?」
レナは問い掛けに対して、少し戸惑ったような顔をした。
「私は…、いいの。外に出ないから、あんまり汗もかかないし。」
「…そう?それならいいけど。」
なんだか、レナの笑顔がぎこちない。
二人のやり取りを黙って見ていたアーウィンが、口を開いた。
「…レナなら昨日、私が綺麗にしたから問題ない。」
「アーウィン…!」
少年は背中に雷でも落とされたような
衝撃を受け、その場で硬直した。
呆気に取られたフレディと目が合うと、レナは頬を赤らめてうつむいた。
「…え?なにそれ?なにそれ?…つまりねえちゃんは、に、にいちゃんと一緒に、入ってるって、こと?」
「何か問題があるか?」
「あるっ!大いにあるっ!!」
「落ち着いてフレディ!違うの!」
「違うもなにも…!……!?」
言いかけてフレディは言葉をつぐんだ。
レナが、今にも泣き出しそうな顔で、フレディの服の裾を引っ張っている。
「…アーウィンはね、私のためにしてくれてるの。私ね……」
「レナ、余計なことを話す必要はありませんよ。」
「でも…」
「にいちゃんはちょっと黙ってて。」
フレディは、レナが、アーウィンをかばおうとしていることに腹が立った。
「…それで?」
「フレディ…私ね、実は……」
「…お風呂が怖いの。」
「……なんだって?」
レナの言葉が理解出来ず、フレディは思わず聞き返す。
「お風呂の水が、怖くてしかたないの。アーウィンは、手助けしてくれてるだけなの。」
戸惑う少年に、アーウィンは軽蔑の視線を投げかけた。