背番号「1」は5年生

□デビューはベンチから
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 ここまでの得点経過

 シャ 011  =2
 スピ 30   =3


「次の1点、かな?」
「どういう意味?」
 野球の試合では「次の1点」という言葉が時々登場する

 次に1点取った方が有利、という意味だ
「点を取った方が有利なのは、いつも同じじゃない」
 そういう意味ではない

 この試合、リードしているのはスピッツだが、点差は僅かに1点
 試合の流れは追い上げ中のシャークスにある
「シャークスが点を取って3−3になったら」
 勢いを加速させてシャークスが俄然有利になる
「同点のままでも、シャークスが有利」

 逆にスピッツが1点を奪えば
「点差以上の効果がある」
 シャークスからすれば、追い上げムードに水を差されるだけではない
 せっかく3点差を1点差にまでしたのに、再び2点差になってしまう
「永遠に追い付かんように思える」
 実際、それからシャークスが勝つためには、最低でも3点が必要になる
「今で2点、これから3点」
 確かにシャークスには重い

 3回裏
 この回は4番の金井君から

@4番の金井君、レフトへヒット
 無死1塁
A5番鳥居君、送りバント
 一死2塁

 相手に負けない堅実な作戦だ
 これもトーナメント戦ならではだろう
 一発長打の魅力を持つ鳥居君だ
 リーグ戦なら滅多に送りバントはない

B6番の北山君、ショートへのライナー
 二死
 2塁走者の金井君、戻りきれずにダブルプレー
 チェンジ

「ハードラック!」
「あぁ私の神様」
「それ、何?さっきから」
「Oh My God」
「日本語に訳して言うな!」

 それにしても「運」だけではない
 北山君の打球は、相手ショートに横っ飛びで好捕された
 あと数センチ左へ飛んでいれば、金井君は楽々生還できただろう
「けど、あのスタートは早過ぎる」
 金井君には厳しいが、打球を見極めてからスタートを切るべきだった

 言っても仕方ない

4回表
 この回からマウンドには桐畑君が上がった
 先発の星川君はライトに入る
 形としては、北山君の代わりに桐畑君

「仕方ないか」
 まだ始動して間もないスピッツ
 勝ちパターンも確立していない
 今の時期は、選択肢の中で一番確率の高いものを選ぶ
「星川君は疲れ始めてたしな」

「あ、健太!」
 その時、目の前のファウルグラウンドを健太が横切った
 その後を岡田君が追う
「投球練習やね」
 やはり出番は最後になるのかな?

@6番打者、セカンドゴロ
 一死
A7番打者、ショートゴロ
 二死

「桐畑君、好調ね」
「あぁ、けどなぁ」
「けど?」
 次の8番打者
「あの君は、何かある」

 その日のキーマン、その試合のラッキーボーイ
 何かあるとは、そういう意味だ

B8番打者、四球
 二死1塁

「的が小さいと投げ難いの?」
「的って、キツい事言うなぁ」
 的はキャッチャーミットだから、打者によって大きさは変わらない

 しかし打者が小柄だと、何故か制球を乱し易くなる

C9番打者のとき盗塁
 二死2塁

「野球を知らんのか、知っててやってんのか」
「どういう意味?」
 この場面での盗塁は定石にはない
「打者に任せて、アウトでも次の回はトップから」
 もし盗塁に失敗すれば、次の回は9番打者からになる
「桐畑君も裏かかれたかな?」
 セオリーを知ると奇策に弱くなる

 9番打者、ライト前ヒット
 二死1・3塁

「今止まったのも作戦?」
「いや、違う」
 桐畑君の球には、今日は普段の威力がないように見える
 内野ゴロ2つも、良い当たりだった

D1番打者、四球
 二死満塁

 シャークスの応援団が賑やかさを増す
 スピッツの応援団も何とかしたいが、言葉が出ない
 
 ピンチの桐畑君を勇気付けるのは、応援席からの声援だ
 それは分かっている
 分かっているが、球場の雰囲気が圧し掛かって来るのだ

E2番打者、サードゴロエラー
 シャークス得点

 3−3
 二死満塁

「とうとう同点…」
「まだ終ってへんぞ!」
 ベンチから田力君が叫ぶ
 スピッツ守備陣も手を上げて答えるが、その手に力がない

「交替?」
「いや、アカン」
 ここで投手交代は簡単だ
 しかし桐畑君には嫌な思い出だけが残る
 自分が打たれたのなら、まだ仕方がない
 しかし打者を抑えたのに味方のエラーである

F3番打者、レフトオーバーの満塁本塁打
 シャークス逆転

 3−7
 二死走者なし

「これで交替やな」
「健太?」
「ここで投げんと背番号が泣く」
 言っていると監督が出て来た
 ブルペンの健太にマウンドを指差す

 マウンドへ駆け寄った健太が桐畑君からボールを受け取る
 ホームベース付近では、岡田君が地面を均している

「どう変えるンかな?」
 まだ4回の表だから、試合の先々も考えなければならない

 ここまでの得点経過

 シャ 011 5  =7
 スピ 300   =3
 

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