背番号「1」は5年生

□デビューはベンチから
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 試合前の練習が終わり、両軍のベンチ前に選手たちが整列した
 審判の「集合」の声を待つ間も、モチベーションを上げようと声を出す
「集合!」
 主審の声がして、両軍の選手たちが勢い良くダッシュする
 ホームベースを挟んで整列し、主審の掛け声で挨拶した
「よろしくお願いしま〜す!」
 この段階で勝負の決着が見える時がある
 声の小さいチームは、まず勝てない

 さて、整列の順番には暗黙の了解がある
 審判に一番近いのは主将
 次に6年生が背番号順に並ぶ
 その次に5年生が背番号順だ
 だから健太は10番目になる
 ちょうど真ん中あたり
 面白いことに身長も順に低くなっていた

「やっぱり先発じゃない」
「そうやわな」
 負けたら終わりのトーナメント
 しかもその初戦の相手は優勝候補
「監督も5年生の先発は怖いやろ」

 実は先ほどの投球練習を見れば、誰が先発かは簡単に分かった
 そして桐畑君は、星川君が早々に打ち込まれた時の緊急リリーフ
「健太は最後やろな」

 プロ野球では「ストッパー」などと言う
 最後に投げる投手に一番の信頼を置くのだ
 それは少年野球でも変わらない
 選手の疲れも考えると、終盤は内野ゴロも怖い
 そうなると最後の投手には奪三振を期待したくなる
「健太にはピッタリや」
 もちろん、先発完投型の投手なら文句はない
 投手の交代時期は、ある意味ベンチの賭けになる

 しかし健康面を考えると、そんなに長い回は投げさせられない
 規定では7回までの試合でも、小学生にとっては長丁場だ
 少なくとも前の投手より速い球が欲しい
「だから星川君から健太へ、がベスト」

 星川君は去年も投げている
 マウンド経験は十分だ
 しかし健太に公式戦の登板経験はない
 度胸と根情では何ともならない

「けど別の守備位置は?」
「どこを守るんや?」
 震えながら縫い付けた背番号「1」だから早くお披露目したいか?
 分からないでもないが、守る隙間がない
 9人全員6年生のスピッツに、5年生が割って入る隙はない

 先に守備に着いた後攻の西大阪スピッツナイン
 専用球場とはいえ、普段の試合で場内アナウンスはない
 だから打順は見てのお楽しみだ



1回表
 スピッツ先発の星川君は素晴らしい立ち上がり
@先頭打者を三振
A2番打者を二ゴロ
B3番打者を遊ゴロ
 チェンジ

 三者凡退で早々に攻守交替だ

1回裏
 反してシャークスは先発投手が不調だ
@先頭の新庄君がヒットで出塁
 無死1塁
A2番の関本君は送りバント
 一死2塁の先制のチャンス
B3番の新井君はライト前ヒット
 一死1・3塁
C4番の金井君はセンターへ犠牲フライ
 スピッツ先制

 1−0
 二死1塁
D5番の鳥居君は四球を選ぶ
 二死1・2塁
E6番の北山君の打球が相手の失策を誘う
 二死満塁
F7番の星川君が死球で出塁
 スピッツ追加点

 2−0
 二死満塁
G8番の白井君も四球を選ぶ
 スピッツ追加点

 3−0
 二死満塁
H9番の平野君は痛烈な打球も一塁手の正面へのライナー
 チェンジ


 スピッツ応援席は大騒ぎ
「シャークスなんて大した事ない」
 あんまり言わないように
 アマチュア野球で応援席が相手を野次ると、酷い場合は負けになる

2回表
C4番打者がヒット
D5番打者が送りバント
 一死1塁

「セコくない?」
「まだ始まったトコ」
E6番打者が二ゴロ
 二死3塁

「あれは3塁へ投げられない?」
 投げられるなら投げてる
F7番打者の時、暴投
 シャークス得点

 3−1
 打者はその後三振
 チェンジ


「もったいないわ」
 そう、エラーはもったいない
 特にバッテリーエラーはもったいない

2回裏
 初回に打者一巡したスピッツは、この回も先頭の新庄君から
@新庄君、ショートゴロ
 一死
A関本君、サードゴロ
 二死
B新井君、ショートライナー
 チェンジ


「惜しかったわね」
 確かにどれも良い当たりだった
 しかし野手の正面に飛んだ
「嫌な予感がする」
 2点のリードはあるが、試合の流れが見えない
「次のシャークスの攻撃が問題やな」
 8番打者から始まる回は得点が難しい
 しかし点が入れば、走者がいる状態で上位打線に回る

3回表
@8番打者が四球で出塁
 無死1塁
A9番打者、送りバント
 一死2塁

「負けてるのに送りバント?」
「負けてるから送りバント」
B1番打者、ライト前ヒット
 一死1・3塁

「助かったわね」
「助かったんかな」

 今の場面、2塁走者の生還は可能だった
 しかしシャークスは、意図的に1・3塁の形にしたように思える

C2番打者、四球で出塁
 一死満塁

「星川君、大丈夫かしら」
「疑う暇があったら応援したれ」
 この回の星川君は確かに変だ
 先頭の8番打者は小柄な選手
 だから制球がままならないとは考えられない
 思い切ってど真ん中に投げ込んで安打を許すか
 気にして四球を与えてしまうか

 良し悪しを知らない星川君ではないだろう

D3番打者、センター犠牲フライ
 シャークス得点

 3−2
 二死2・3塁

「あぁ私の神様!」
 センターへのフライで、3塁走者がタッチアップした
「捕球後は塁を離れても構わない」
 捕球した新庄君は本塁へ返球
 好返球かと思われたが、マウンドの膨らみで方向が変わった
 球が転々とする間に、別の走者も進塁してしまった

E4番打者、四球で出塁
 二死満塁

 まだスピッツが1点勝っているのに、球場全体の雰囲気が変わった
 ベンチも応援席も、スピッツサイドはシュンとしている
「まだ終ってヘンぞ〜!」
 あの声は、田力君だ

 確かに、まだ3回の表
 けど、まだ勝ってる方が先だよな

F5番打者、強い当りの一塁ゴロ
 チェンジ


 ここまでの得点経過

 シャ 011  =2
 スピ 30?  =3
 

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