陰色の陽

□夢回す銀槍 part4
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「どっちにしろ」




大助の言葉で、陰璃は我に返る。どうやら、亜梨子も同じようだ。




「中途半端な気持ちで関わるなら、やめたほうがいい」


「中途半端なんかじゃないわ。命にかえても、絶対に虫憑きを見つけるつもりよ」


「これこれ。“命にかえても”なんて、そう簡単に言ったらあかんでぇ。それに、君みたいな大切に育てられたお嬢様には知らないことって、いっぱいあるんやでぇ」




小馬鹿にしたように言うのに対し、亜梨子はむっと、棒を握る手に力を込める。




「このバカの言うとおりだ。こんなバカみたいな世界でも、何人も犠牲にして生き続けたいと思ってるヤツがいる。犠牲にしたくないから、逃げて逃げてかろうじて生きてるヤツもいる。……どんなに憎まれても、汚れきっても、それでも生きたいと思うヤツなんていくらでもいるんだ。死んでもいいなんて言うヤツは、死ぬ価値すらもないんだよ」


「…………」




まるで世界そのものに怒りを抱いているような、憎悪が込められた声だった。亜梨子はそれに気圧され、口を閉ざす。


それからさらに、感情の読み取りにくい声で、陰璃は大助の言葉に続けた。




「それになぁ、死にたくても死ねへんで、誰かのためにしか生きられへんヤツだっておるんやで」


「…………」




背中に大助の睨むような視線を感じる。それに振り返り苦笑を浮かべると、大助は亜梨子を鼻で笑い、陰璃と共にその場をさろうとする。




「……アンタたちだって、知らないでしょう?」




亜梨子は、言う。




「生きたくても生きられずに、他の誰かに想いを託していなくなってしまう……そんな子だっているのよ」






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