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□Until the world is over
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「た、助けて!」
(ったく、逃すなよ。)
通路の角から飛び出して来た女に抱きつかれ、胸の中で舌を打つ。
操作していた男が壊れて使い物にならなくなった途端にこれだ。一筋の髪が乱れるのも気にするような女は使い物になるはずもなく、自らの手で助けを乞う女の首を折って恐怖から開放してやる。
「お、シャルいたのか」
「自分の持ち場くらいちゃんと始末しろよ。フィン、報酬減額決定ね」
「げっ、まじかよ」
外にパクとコルトピが待機してるからここから逃げられたとしても、女の運命は遅かれ早かれ同じ末路だ。そもそも厳密にターゲットの担当を決めていたわけではないので、運良くすり抜けた女一人がいたところでフィンクスを責めるのはお門違いなのだが、手のひらに残った肉の感触が不愉快だったのでやつあたりさせてもらった。
ズボンに擦りつけてみたが、一度感じてしまった感触はなかなか消えてくれない。
だから嫌なんだよ。
殺しを戸惑うような質じゃないが、自分の手を使っての殺しは避けている。あの感触を忘れないためにも、あの時に誓ったことを忘れないためにも…
人知れず涙を流す背中を、何も出来ないまま眺めるのは何度目だろう。
いつでも笑顔を絶やさないあの人が、あの背中を見送る時にだけ見せる表情を誰も知らない。そう、一番近くに居た俺だけが知ってる悲しみ、悔しさ、虚しさ、どうにもできない自分の不甲斐なさが混じったあの顔を。
女の香りを纏って外から帰ってくる度に静かに壊れていく彼女を見ていられなくて、とうとうあの日言ってしまったんだ。俺が苦しみから開放してあげると
。
暫く意味が分からず戸惑っていた瞳がゆっくりと閉じ、そして彼女は俺に首を差し出した。
「ねぇ、眺めるのは帰ってからにしてくれない?」
「ああ、すまん。今行く」
「大体片付いてるから早くしてよね」
今夜のターゲットが置かれている部屋を覗くと、壁に設置したままの絵画を眺めている男の姿を見つけ声をかけた
どうせこれだってすぐに興味が失せて換金リストに名前が並ぶのだろう。こんな物をどんなに求めようが欲求は埋められないくせに
あいつさ、時々俺を見て顔を歪ませるんだ。あなたが死んだと聞いた時眉さえ動かさなかったあいつがだよ。あんな顔で見つめられた俺は確信したよ、本人は自覚してないけれど今更あなたを求めているんだって。
それに気付いた時は笑いが止まらなかったな。あなたにいい土産話ができたって。でももう少し待ってて。あいつがもう手の届かないあなたを求め、苦しむ姿を見届けるまで。
ねえ、姉さん。また会える時まで俺はあなたと同じ目、同じ髪でこの男の側で笑っているよ。
俺の世界が終わるまで、ずっとね
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