You change the world.

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部屋の扉が開く音で目が覚める、入ってきた気配は体長が90センチの少女
なるべく音を立てないように扉を閉めてベッド近づいてきたのは小さなスライ、布団を捲って受け入れるのはいつもの事で今ではスライも驚くことなく滑り込む

普段は1人でも寝れるくせに私が滞在中は毎晩のように甘えてくる、日中は一人前の口を叩く彼女だがまだまだ赤ちゃん、その小さな体に腕を回し部屋までくる間に冷えた体を包み込む。

すぐに小さな寝息が聞こえてきて手足に熱が戻って温かい、いつもこのまま一緒に寝入るのだが最近は良く睡眠を取っていたせいか寝付くことが出来ない
ベッドの横に置いてある時計を見るとまだ4時、春の朝は太陽が昇るのが遅く外は暗い、二度寝を諦めスライを起こさぬように抱いていた腕を抜き窓に視線を向けると空には星が浮かんでいる
新鮮な空気に触れたかったがスライが寝ているので窓を開けるのをやめそっと部屋を出る

キッチンの冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを一本取り出し、飲みながら屋上へと階段を登っていると先客がいる気配

こんな時間に屋上に人がいるのに驚き一瞬歩みを止めたが私以外の大人が滞在していたことを思い出して屋上に続くドアを開けた

先客は貯水漕の上に座り部屋から持ってきたのか毛布にくるまりランプの光で読書中、登ってきたのが私だと分かっていたのか顔を上げることも無く読書を続けている、邪魔するつもりはないのでお情け程度に設置している落下防止の柵に近づき村を見渡しながら深呼吸
新鮮な冷たい空気を胸に吸い込むと身体の中が浄化される気分になる
住居を置いている賑わった街中では味わえない一時

日中はポカポカとした陽気なのに太陽光がないとまだ寒い季節、冷たい風が吹きブルッと身体が震えた
スライの体温が恋しくなり冷えた体で起こしてしまいそうだけど一緒にベッドに入って微睡みたい

部屋に戻ろうときびすを返した時視線を感じて見上げたら私が来た時も本から目を離さなかったクロロがこちらを見て微笑んでいる、指先だけをクイクイと動かして呼ぶから足にオーラを込めて貯水漕に飛び乗る

丸みを帯びた小さな四角い貯水漕は上が平らでフタの出っ張りにはランプが置かれており残ったスペースは大人が2人座るのにはちょっと狭い
見下ろす形でクロロのすぐ横に立ち言葉を待ってみたけど真顔でこちらを見上げてくるだけ、なんで呼ばれたのか分からなく首を傾げると冷たい風が吹き付けてきてまたブルッと体が震える

腕をさすろうと動かした手を引っ張られ気付いた時には足の間に座っていていつの間にか本を置いたクロロの腕に捕まっていた。
包み込んでくる形で一緒に毛布にくるまり背中からクロロの体温が伝わってくる、寒かった私は助かるけどクロロが何をやりたいか分からない

「寒いなら部屋に戻れば?」

「いや、…いい」

ここに座っているより部屋に戻った方が数倍過ごしやすいに決まってる、いつから此処に座っているか分からないけどお尻だって痛くならないのかな?

「…ねぇ、寒いから戻ろうよ」

肩に頭が乗せられギュッと抱きしめる力が強くなる、こんなに強く拘束されると私の力ではもう逃げることが出来ない

「戻ったら逃げるだろ…もう少しこのままで…」

「えっ」

顔だけ振り向くとクロロの髪が鼻をくすぐりこそばゆい
前に向き直り小さい溜め息、逃げることが出来ないからクロロが満足するまでこの体勢を受け入れるしかない


次第に拘束が緩くなり肩に乗る頭が重くなる、眠るならベッドに戻った方が良いと思ったけど、せっかく寝入ったのを起こす気にはならずそのままこの体勢を受け入れよう



私もイルと一緒に居ると気が緩む、それは長い時間を共有してきた安心感からくるもの、クロロとはつい最近会ったばかりで私に何を求めているのかさっぱり分からない…

答えが見つからないまま白み始めた空を見続けることしかできなかった





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