一周年記念
□知らなかったのは私だけ?
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「お疲れ様でした、イルミ様。お風呂の支度は出来てますがすぐお入りなりますか?」
仕事を終えて自室に戻ってきたイルミにドアの横で待ち受けていた名無しさんはきっちり45度に腰を折る
「その呼び方止めてって言ってるよね」
「いえ、止めません。私はイルミ様の専属メイドですから」
「なんで今日は一段と機嫌悪いの?あっ分かった、生理だ」
人差し指を立てあたかも正解を言い当てたかのようなしたり顔にため息が出そうになる
一年も一緒に居ると表情が乏しいイルミの微細な変化も分かるようになっていた
「違います。イルミ様それセクハラですよ」
「まっいいか。風呂入るから背中流して」
「私はそのようなメイドではありません」
「そのようなメイドって何してくれるの?」
「もぉぉぉ!いいから早く入ってこい!」
最後に私が赤面しながら太ももに蹴りを入れて話を終わらせるのがパターン
その日暮らしをしていた私が臨時採用で警備にあたっていた時に踏み込んできた族であるイルミにこの屋敷に連れてこられ早一年、当初は何かと反発していたけど三食昼寝おやつ付きでこの部屋の掃除しかしない私でも従業員の皆さんは受け入れてくれているもんだから居心地は最高
週3で行われる従業員資格の拷問の鍛錬だって電気以外は師匠と過ごした日々を思えば難なくクリアできる程度だし、雇い主であるイルミも頼んでくるのはお茶の用意とマッサージくらいでイルミが仕事に出ている間は自由
一定の場所に落ち着けなかった私でもこんな好条件ならある程度お金が貯まるまで居座ってやろうと最初は軽く考えていたんだけど…いつしか予定は狂ってしまった
いつの間にか私の中に芽生えたこの感情
初めて知る甘酸っぱい胸の高鳴りは…
「ねえ着替えどこ?」
「せめてガウン着て出てこい!」
腰にタオル(それもフェイスタオル)しか巻かないでお風呂から出てくるような男にあっさりと奪われてしまった
「なに照れてるの?」
「そんなんじゃない!常識ってもん考えろ!用意してあったの早く着てこい!」
何度言っても止めてくれないセクハラ行為、最近は日常的になったこの行為は恋心が芽生えてしまった私に取って刺激が強すぎる
鍛え上げられた胸板、優しく腰に回される逞しい腕、有能な暗殺者なのにふとした時に見せるちょっと抜けたところ
イルミの全てに魅せられている
「今日はお話があります。そこに座って下さい。」
イルミより先にソファーに座り向かいのソファーを指す
主を呼びつけ指示をするなんて考えられない事かもかもしれないがこれが私達流ゆるーい主従関係
私はそれを今日で終わりにするつもり
「いいよ、俺も話あるし。その前にお茶淹れてくれないかな、母さんから貰った茶葉あるでしょそれ淹れて」
特別な時にと奥様から貰った紅茶は大事に締まってある。なんでその事をイルミが知っているのか疑問だったけど緊張で喉が渇いていたのと僅かでも話を遅らせたい気持ちが相まって今日は素直にお茶を用意する
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