本3 その他CP

□俺で良いなら
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ゴトタツ





今年は例年より寒く感じる。
達海は寒いのが苦手だ。暑いのも駄目だが…まぁそれでも口でグダグダ言ってる割に我慢強くは見える。
ただ細身の身体を丸めて他チームのデータ集めに没頭してる姿は日にちを重ねるにつれ何だか不憫な見た目なので、甘いなと後で後悔するのは目に見えてるがつい甘くなる。

「達海」

名前を呼んでドアを開けた。

データ集めしてました、と正にその状態のまま机に倒れるように眠る達海の姿が視界に入る。目の下の隈が当人の疲労を如実に物語る。ただ表情は余程良い作戦でも思いついたのだろうか…自信有り気な感じで相手チーム側でも無いのに後藤はギクリとした。そして一呼吸置いて苦笑し、監督として頑張ってるその姿に誇らしく思えた。だから自分も頑張る甲斐があると目を細めうつ伏せで寝ているその背を労わる様に撫でる。

あまりにぐっすり眠る達海に後藤は上着のポケットに入れていた差し入れに買って来た未だ暖かい缶コーヒーを出すのをやめた。

達海は寒さ故、毛布を被っているもののベッドの上で寝ている訳では無い。放っておいては身体に悪いし、風邪も引きかねない。あまりに良く眠る顔を見て、起こすのは気が引けるが、ベッドへと場所を変える様に促すべく声をかけた。
二度三度と名前を呼び肩を揺する。

「達海、寝るならベッドにしろ」

「…………んー…」

気怠い声を漏らしぼんやり目を開ける達海に子供を起こしているみたいで苦笑する。

「達海…、寝るならベッドにー…」

「……ぅ…ん」

「…達…」



再度促すと、のろのろと身体の向きを変えて、返事なのか呻きなのか判別しかねる声色と寝ぼけ眼で見上げられ一瞬後藤はたじろいだ。無防備な表情にドキリと心臓が跳ねた。

「…ごとー…眠い…」

後藤がそうして驚いている間に、ちゅと軽く唇が触れ合う。するりと腕を背にまわされ達海に懐く様に胸に顔を埋められ、また達海のペースだと片隅に過ぎらせ乍、後藤は大人しくしたい様にさせる。
達海はもぞもぞと身体を身じろがせ自分に良い位置を見つけたのか落ち着き、寝息を立て始める。

「達海…」

だからベッドへ行け、と口にはしないが呆れ気味に名前を呼ぶ。返事は無い。肩を竦め如何したものかと息を吐いた。
暫くそうしていると「あったけ…」と温もりに満足な笑みを浮かべ達海が小さく呟くのが何だか可愛く見えて、達海の前髪をそっと手で梳く。普段なら自分も良い年の癖にと照れてあまり出来無いが露わになった額に軽く唇を落とすと後藤も達海の背に腕をまわし反対の手は引き寄せる様に達海の頭へと伸ばした。
達海の事だから本当は起きているんじゃ無いか、とそう思いつつ其れでも良いと抱き締めて、はたと達海の耳が赤いのに気付く。何、ハズかしー事してんだよ、と反論が聞こえて来そうだが後藤は目を細めた。
其の儘ベッドへと寝かせたが、何やら急に照れてしまったらしい達海が手を離さ無いので後藤が上に覆い被さる形になる。目の下を僅かに赤くした達海は案外心地良さそうに目を閉じている。反論が無かったのも嫌では無かったのだと受け止め、互いの体温でそれなりに暖かいとはいえ無いのは良く無いから後藤は先程達海が使っていた毛布を引っ張り一緒に被る。

「皺になるな…」

スーツの儘の自分にそんな事をぽつりと呟くと腕の中から馬鹿と小さく聞こえた。

「なぁ、達海」

半分は微睡んでいる所為か相変わらず達海からの返事は無い。

「お前が休める場所なら幾らでも提供するからな」

此処、と抱き締める腕に力をこめる。

「…俺で良いなら」

思わず続けた一言に後藤は眉を下げた。時計も無い静かな部屋に布の擦れる音がやけに響く。達海が腕の中で身じろいだ。

「…に、しおらしい…事、言って…ん…だよ」



疲労と眠気の掠れた声だった。これは一秒でも早く休息させなければ、と真っ先に其れが過る。

「……俺…はーーーー…………」

「…おい、…達海…?」

それから気を失う様に達海は眠りにつく。
言いかけた言葉が気になったが、思い止めた。

横になれば後藤も日々の疲れで瞼が重たくなる。達海がしっかりとくっついているので自分の携帯は取り出せ無い。視線をふと横にやると、データの膨大な紙の山から達海の携帯が見えたので手を伸ばす。意外に未だ数分しか経ってい無いのを確認していると、独り言みたいな声が聞こえる。

「…此…、処…が、良いに……決ま…てん…じゃん…」

「達海…」

気になってはいたが、態々言ってくれるとは思って無かった。
今はもう寝ろよ、子供を寝かしつける様に背を撫でる。

聞いてくれるかは分からないけど。






おわり













 
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