本3 その他CP

□necessity
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モチミク





 試合終了まで後僅か15分程度だった。



 試合は1:0で勝ってはいるものの正直あまり褒められた内容では無い。脚の不調の為、漸く参戦してきた持田の機嫌悪そうな表情に同じチームメイトに関わらず内心脅威を感じたから相手チームはもっとその威圧が凄かったと思う。



 王者たる東京Vとしてもだけどそんな不甲斐無い試合をしてる事にプライドが許せ無くて三雲は情け無く感じた。



 ただひたすら必死にボールを追い掛けた。











 ドンッ!







 鈍い音がしたと思った時には三雲は既にピッチへと背を預けていた。



 相手チームとぶつかり、倒れた時に頭を打ったようだ。意識が薄れるのが先だったから痛みはあまり感じ無かった。



 駆け付けてきた城西に「大丈夫か!?」と声をかけられたのを視界に入れたが、ぼんやりとそのまま気を失った。



 最後に視界に入れたのは城西の向こうにいた持田だった。蔑んでいるような呆れてるような、その瞳は冷たく感じた。















 目を開けたら医務室だった。



「目が覚めたかね」



 まだハッキリしない意識の中、かけられた声の方をゆっくり見る。



 腕と、脚も組んで落ち着き払った口調でそこにいるのは監督の平泉。




「脳震盪だそうだ。大した事は無いそうだが」




「…試合…は?」



 何より気になった事が考えるより先に口をついて出た。




「あまり褒められた内容では無かったな。まぁそれでも持田が良く働いてくれたからな…」




「……………」



 勝った、とわざわざ言わないのはそれが当然だとしているからなのか…。




「三雲、今日の事は気にせず身体を休めろ。明日には念の為、検査するそうだ。問題無ければ次の試合に出てもらうが…」



 そこで話を止めた平泉は一瞬どこか遠くを見てる気がした。持田の事を暗に言いたいのだろう事は直ぐにわかった。本人の意思とはいえ壊れるのがわかっていて戦わせるのは、自分が考えているよりきっと重い。しかし、それについては多くは語らず「次の試合でもお前を使いたいと思っている」と言うと立ち上がりドアへ手をかけた。



「…俺は大丈夫です」



 一言そう返すと平泉は表情一つ変える事無く医務室を後にした。





(…くそ)




 天井を見上げながら試合にフルで出られ無かった事に悔しく思う。フル出場出来る体力も脚も持っているだけに余計に…。




(もっと動けんだろ、俺!)




「……………」



 ふと過ぎるのは、意識を失う前に見た持田の瞳だった。




(呆れてんだろうな…)



 本当にそのまま死んでしまうんじゃ無いかと思えるくらい試合中の持田の気迫と威圧は凄くて、そんな持田から見たらピッチにいる全員が巫山戯けてんのか?とかしか思えない動きしかして無いのかも知れない。




 俺達の必死はまだあの人に遠く及ばない。




「………く…ッ…」



 両腕で目を覆った。



 自分達が…自分が持田に見合うくらいの動きが出来ないせいで、またあの脚に余計な負担をかけたと思うとただ悔しかった。















 頭を打ったせいもあるけど知らないうちに眠りについていたらしい。




「……………?」



 瞼はまだ開かないし、意識もかなりぼんやりしていたがベッドの横に気配を感じて誰か居るのかと思った。



 声を発しようとしたが出来無かった。だからまだ本当は夢の中かも知れないと起きようとする意識は遠避けてそのまま力を抜いた。




「……ったく…」



 ぽつりと呟かれた声にドキリとした。




(…持田さん?)



 持田の声を自分が聞き間違えるはずは無い。そこに持田が居るのがわかると、その顔を見たくなったが身体はまだ起きる気は無いようだった。動け無いから代わりに耳を澄ませた。




「お前が先にピッチ下りるとかマジ無ーからな」




 当然、試合での交代の話をしてる事じゃ無いのはわかった。




「先にとか…終るなよ」



 もう一度ぽつりと言われ、少しの間しんと静まりかえる。



 少し息を詰めるような一瞬の間だった。





「…俺を…一人にすんなよ……っ」



 絞り出すような声だった。




 心配…してくれたんだろうか…?




 それに




 一緒に戦いたいと思ってくれてるんだろうか…?




「…まだヒヨコのくせに」




(………………)




 ふに、と頬を摘まれる感じがした。



 起き上がりたいと思ったがやはり瞼は不思議と重くて開けられない。




 ふ、と横の温もりが無くなるのを感じた。




 バタンとドアの閉まる音。




 持田の表情は結局わからないままだったけど、




 今はただ




 勘違いしておこう






 図々しいかと、苦笑した。




 そして、三雲は再び眠りについた。















おまけ




「…………!????」




「本ッ当にお前は寝てるか、いねぇかどっちかだよな。いい加減にしろよ」



 声の主の後ろは昨日と同じ背景。



 て、事はまだ病院。



 何で持田が目の前にいるのか、そこで思考はあっさりショートした。




「…持田さん?」




「他に誰に見えんだ?」




「……………」



 少し考える。




(持田さんに見える、間違い無い)




「……じゃ無くて、何で…っ」



 まだ病院にいるんですか……?



 つか何で…




 隣(一緒のベッドv)で寝てるんですか…!?



 と、聞きたいが怖くて聞け無い。




「帰ろうと思ったけど何か病院ん中暗いし」




 暗い?そういえば監督が帰る時、消灯時間だからとか話してるのが聞こえたような…?



 そう考えると持田が来たのはその後。




(……どうやって入って来たんだ?)




「帰るの面倒だったから」



 そう続ける持田は寧ろ俺が一緒に寝てやったんだから有り難く思えよ、くらいの感じで三雲はいつもの持田さんらしいな、と少しホッとする。




「…大分元気そーだな」



 僅かな三雲の安堵の表情を見逃さなかった持田は、そう言い三雲の額に手をあてる。



 予期せぬ持田の行動に驚いて三雲がドキっとする。だけど気にしてもらえてるのが嬉しかった。




「…まぁ…き、昨日よりは…」




 昨日の持田の言葉も勘違いしたままで良いかな、と頬が少し熱くなる。




「場所的に悪く無いし、スるか」




「…………は?」





 何かおかしな事聞いたような…?



 ずい、と近づく持田に三雲がビクッとなる。




 何が?




 場所的に?




 ベッドの上。




 ただし病院の(笑)。





「…は?いや……待っ…」




「お前の意見は聞いて無ェ」




「な、…っ、ちょ…ッ」




 問題なくなくなくない!(混乱)




 何言ってんだ!(いや、実際口に出してはいないが)自分で混乱してるのがわかったが、既にマウントを取った持田の征圧圏内に言葉も思考も整理するのは今は不可能だった。















 検査の結果はオールグリーンでした。(次の試合も頑張ろう)




おわり
 
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