本3 その他CP

□僅かに純情かも知れない
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※『城塞の如く』と繋がってます。単発でも読めます。





「鬼ごっこしよう」 


 明日オフだし、と夜も遅くに持田に呼び出され携帯ごしの声色に逆らえないと来てみれば、軽い口調で言われた言葉に理解がついていかず、三雲はぽかんとした。


 そうこうしてる内に向きを変え視界から消えて行く持田をぼんやり見送りはっとする。



「持田さん!」


 漸く発した声は持田が完全に消えてしまった後なので届く事は無かった。


 こんな東京の街中で人一人を探すのかと嫌な汗が出て来た。持田の気まぐれだろうがともかく後が怖いので三雲には探すより他は無かった。



(なんだって急に…)


 持田の意図は全くわからないまま足を走らせた。








 暫く探してみたが持田は見つからない。見つけられるのか、と不安なのか恐怖なのかわからない感情に心臓がドキリとした。


 息を整え汗を拭ったところで視界にタクシーを停めるジーノを捕らえた。ジーノも三雲に気付く。



「やぁ、ミック。探しものかい?」



「!」



 何で自分の周りには人の心の中をあっさり言い当てる奴が多いんだ、と三雲は「別に」と素っ気ない返事をして顔を背けた。



 勘の良いジーノの事だ、自分を見て直感的に持田の存在にも気付いたのだろうか。少し間を置き「ふぅん」と向きを変えて足早に立ち去ってしまった。


 同時に三雲も椿が居るだろう事を直感した。今日、急に持田が呼び出したのもこんな予感があったからかも知れない気がした。








「………ッ」


 何があったか多少の想像はつくが見つけた持田は機嫌が悪く何も言えないまま気が付いたら持田の家だった。



 ぐいっと強引に押し倒される。


 視界はぐるりと向きを変えて視線の先は真っ直ぐ天井だった。ひょことその間に持田が割り込んで来る。


 両手を持田の手でベッドへ張り付けられて急な展開に動揺を見せる三雲を見下して有無など言わせず互いの唇を重ねた。


 何度か浅い口付けを繰り返して離れた持田の口からは、くくっと笑う声がした。その笑いが何を意味してのものかは三雲にはわからない。


 ただ黙ってそんな持田を見上げた。笑う持田の目は笑ってない。


 わかっているのは自分が今こうされてる理由。わかってるから抵抗はしない。本当は嫌がって見せれば持田の機嫌が少しは良くなったかも知れないな、と思ったが実行はしない。それが今自分が出来る唯一の抵抗だった。



「三雲、つまんねー」



 虐め甲斐ねー、と反応の薄い三雲の下唇をかぷと噛みついて開いた口内へ舌を差し入れる。


「…んんっ」


 深い口付けに三雲の身体がぞくと震えた。やっと見せた反応ににやりと持田は口角を上げる。征服欲でも掻き立てられたのかどちらのものかわからない程絡めてなかなか離そうとしない。次第に息苦しくなり口付けだけで頭がおかしくなりそうになり身体が小刻みに震えた。



「…は…っ…はぁっ」 



 息苦しさと身体へ燻り出した熱で三雲の呼吸が荒くなる。



「俺が好きなのは椿君だよ」



 漸く離れた持田の口からはいつもの台詞が告げられる。



「わかってますよ」



 持田が自分に手を出して来る時は椿の事が絡んでる時だと三雲は学習している。ETUとの試合の後なんかはもっと酷い。



「目の前であんなに王子サマに懐かれるとすっげームカつく」



「…ッ…持田さ…っ」




 苛立ちを隠そうとしない持田が三雲の首筋に強めに噛みつく。痛みでびくと三雲が肩を震わせた。



「必ず手に入れる」



 ぼそ、と独り言の様にそう言うと不敵ににやりと笑う持田はピッチにいる時の様な威圧感があり、三雲に急激な緊張が走り身体を強張らせた。



 ただ、いつも何故か撫でて来る手は優しい。伸びて来た持田の手に背筋をヒヤリとさせられるが、触れられてしまえばその柔らかい様な優しさに驚かされる。



 他の誰を想っていようと自分はこの人が好きだし、触れられるのが嬉しいのに嫌がれるわけない、と先の「つまんねー」と言った持田の台詞を思い出す。



「椿君が一番好きなんだ」



 そんな持田の言葉も構わないと三雲は持田を見上げた。だけど少し切ないから近付く持田の唇に自分から口付けたら「調子に乗んな」と言われ、伸びて来た持田の手にびくっと怯えてしまった。それに気付いた持田が一瞬手を止めたが顔をぐいと押し返された。



 我ながら殴られ兼ねない事したな、と押し返すだけに留まった持田の行動に安堵する。直ぐに再び持田から口付けされて三雲は複雑な気持ちで苦笑した。





 感情が空回りしてる気がした。


 好きだと言っても伝わるだろうか。


 言わないけど…。










おわり
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