本4 ジノバキ

□もう少し後で
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「「椿ー!ガンバレー!!」」



 フェンス向こうの声に練習中だが、ついビクッとしてしまう。




「子供に人気あるな〜」



 少しからかい混じりに横に居た丹波に言われ、椿は照れ笑いした。「練習中は選手の邪魔しない」と子供達同士で注意する声も聞こえる。試合中でも無いし、練習中の声援にも関わらずドキッとした自分に情けないな、と思ったせいもある。隣で笑う丹波に苦笑ではあるがつられて笑い、こんな自分を応援してくれる気持ちは有り難いので笑い返す。手を振る程度すら声援に応えるべく何かしらパフォーマンスはする余裕は無い。



 それでも見てる子供達にとってプロのサッカー選手はヒーロー同等である。「今、絶対俺見たよ!」なんて大騒ぎである。そんな子供達の横にいた女子高生らしき娘達も「ちょっとイイよねー」何て盛り上がってる。



 練習中でもそれにより緊張を増幅させ兼ねない椿は、逃げるようにその場から離れる。




「バッキー」




「……っ…わ!!」



 離れた先で、ほっと一呼吸していると急に肩を抱かれるからビックゥ!と椿が肩を跳ねさせる。ドキドキする心臓を押さえ自分を呼んだ相手に怖ず怖ず視線を送る。




「…お、王子…」




「そんなに驚かなくても良いのに」




「ス、スミマセン…」



 もう少し驚かないようにしないと、と何とも微妙な決意を内心しながら椿がジーノへ謝る。しかし、ジーノはチラリとフェンスを一瞥して黙っていた。




「…王子?」



 キョトンとする椿に視線を戻したジーノは別に普段と変わらない表情だった。




「バッキーは女の子や子供に人気があるよね」




「え…、あ、そ、そう…スか?」




「女の子や子供達は犬好きだもんねぇ」




「…は、はぁ…」



 ジーノの台詞の意味が良くわからなくて、ふわふわ曖昧に椿が返事をすると再びジーノが黙ってしまった。何かマズかったのかな…不安そうにジーノを見ると今度はじっと見つめられる。




「…あ、あの?」




「……………バッキー」




「は、はいっ」



 この数分で何度目となるのか…椿がビクッと肩を跳ねさせた。










「キスして良い?」






 ↑妬いたのか…Σ!!?

(メンバーの心のツッコミ)





「…………へ?」




 ジーノからのお願いに思わず素っ頓狂な声を上げ椿が目を丸くする。




「い、今!?」




「うん」




「だ、だだだ駄目っスよ!」




「えー、残念」



 動揺し顔を真っ赤にする椿を見て、クスクス笑うジーノはさっきは何と無く拗ねたように見えたが気のせいだったかな、と今は機嫌良く見えるジーノに椿は密に安堵した。




「王子もいつも色んな国の女の人が応援してますよね」



 一瞬嫌味のように聞こえ無くもないが、椿に至っては純粋に凄いな、という尊敬で話をしている。他意は無い。




「あれ?可愛いね。妬いてくれてるの?」




「えッ、いや…ち、違っ…」



 ジーノからツッコまれ、椿が慌てる。否定しかけてジーノの視線に見透かされてる気分になり「うぅ」と唸ると、観念したように口を開く。







「……………ちょっとだけ…」




 ↑認めてる…Σ!

(メンバーの心のツッコミ)




「ふふ、バッキーは素直で可愛いね」



 誰が見てもご機嫌に見える今のジーノ。にこりと笑うと椿の肩へ腕を置き顔を近付ける。




「じゃあもう少し後でするよ」




 ………もう少し?




「…………っ…」




 微妙な含みの台詞に椿が首を傾げていると、自分の唇に軽く押し当てた指を椿の唇へと触れた。




 動揺しわたわたする椿をクスリと笑うとゆっくりその場を離れた。




 もう少し後、に硬直する椿とげんなりするメンバーがいたとかいなかったとか…。















おわり
 
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