本2 ジノバキ、シリーズ

□王子がウチにやって来た!I
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 練習は休みの休日。椿は出掛ける用事も無かったから部屋着でのんびり過ごしていた。



 ふいにチャイムが鳴る。



 実家からの差し入れかな?と印鑑を手にしたものの、はたと前にもこんな事があった気がして印鑑は置いた。直ぐにドアを開ければ朝の陽射しに負けないくらい爽やかなジーノが立っていた。




「お、おはようございます」




「おはよう、バッキー」



 取り合えず、どうしようかと迷いながら挨拶が自然と出てきた。先輩を見たら挨拶だ、と日々の習慣である。急なジーノの訪問もこれで何度目だったかわからない程になったが、やはりジーノが自分の家に来るなんて現実感が無くて未だに驚いてしまう。



 対してジーノは慣れた様子で玄関内へと足を進めて、当然の如く出されたスリッパへ足を通す。



 しかし、いつもならスタスタと戸惑う椿など気にもせず部屋へと入って行くジーノだったが、足を止めて椿をマジマジと見つめていた。何だろう、と不安気な面持ちで自分を見てくる椿は軽く流して考え事をするように手を顎へあててじっと黙って椿を見る。



 真剣な眼差しに椿は金縛りにあったみたいに動け無くなる。どうしよう…内心はパニック状態である。




「出掛けようかと思ったけど、またにしようか」




「……は、はい…?」



 ジーノの中では完結したのか、今日の予定の提案に疑問符を過ぎらせながら椿は返事を返す。



 曖昧ではあったが椿の返事を聞いて漸く部屋へ足を進めるジーノ。以前、自分の為にと買ったであろう座席の高めのハイバックのフロアーソファーは陽射しの良く当たる場所に置かれているどころか、暖房すら一番暖かくなる場所に置かれてあり、ジーノは目を丸くして椿へ再び視線を送った。



 ソファーはどうやら椿が使う事はあまり無いようだった。椿の部屋のものだし、”王子の為”と椿が購入したものだが、自分がいない内は使えば良いし、気を使い座らずいる必要など無いと思うのだが、椿はそのソファーは使わずにいる。それどころか、いつ来るかわからない自分の為に暖かい場所に置いて置くなど普通なら考えられない。



 健気で忠実な愛犬にジーノはふっと口角を上げた。




「バッキーは良いコだね」




「……?……あ、ありがとうございます……??」



 よしよしと撫でられる頭にオロオロしながら、褒められたようだと返事をする椿はきっと自分の行動などわかってはいない。ただジーノの事を想ってそうしてるだけだから意図も打算も無い。



 そんな椿だから愛しいとジーノは笑みを深めた。




「ところで、バッキー」




「あ、は、はいっ」




「なんて格好してるんだい」




「へ?あ、家だから良いかな…って変…ですか?」




「変とかじゃ無いけどねぇ…」



 ジーノがさっき自分を見てたのは格好が原因だったのか…、別にそんなおかしな格好をしているわけでは無いが言われると改めて考えてしまう。



 どんな格好かというと…。



 上はヒートなんたらの薄めの長袖(Vネック)シャツにパーカー(裏起毛)なので普通である。



 じゃ問題は下だろうか?今日は高校の時の学校指定の短パンに何となく足が浮腫むような感じがあったから女性用にもあるが、ニーハイの爪先のあいた靴下(?)を履いている。部屋の中ならそれでも十分温かいから気にしてなかったが、やっぱりプロとして良く無いんだろうか?




「そ、そんな別にあんまり冷え無いスけど…」



 確かに短パンとニーハイまでの間の太股は素足のままだから暖房のきいた部屋だが少し冷える。少しとはいえそれが良く無かったかな、とちょっと反省する椿。




「いや、そうじゃ無くて…」



 ストンとソファーに座らされる。ソファーは暖かくて気持ち良かった。それにほんわりする間も無く、目の前にジーノが片膝をついてひざまづくような体勢になるからそっちに動揺せずにはいられない。慌てて立ち上がろうとしたが制止されてしまい困惑した表情で椿はジーノを見た。




「なんか色っぽいね」




「……………へ!?」



 にっと笑うジーノの台詞が予想外過ぎて驚いた声を出し椿が目を丸くする。



 長い指先で覆うものが無い太股の部分をなぞられて思わず椿の身体はビクンと跳ねた。さっきまで外にいたせいかジーノの手の方が冷えている。




「…ひゃ……ぁ…ッ」



 ふる、と震えて冷たさもプラスされて弾みでとはいえ出てしまった声にかぁと顔を赤く染めて口を押さえた。



 小さく漏れた声だったから、聞き逃してもおかしくは無かったがジーノに限ってそれは無い。にっと口角を上げたジーノの表情に聞こえてしまったのは明らかだ。口を押さえ赤い顔をする椿だが対して日に焼けていない太股は白くて、まだ二十歳の椿はキメも細かく綺麗だ。皮膚の薄い部分という事もあるが、ついと指を這わせれば敏感に反応し益々頬を赤くした。




「……ぁ、…や…」



 まだ日も明るいうちに…とジーノも自分自身に呆れてしまうが可愛らしい愛犬の反応に行動は止められない。ちゅ、と唇を落としきつめに吸えば赤い跡が浮き上がり気持ちは箍を外す一方だった。




「……ん、んッ」




「…可愛い」



 口から出るのはもう無意識にも椿が自分の側に居るだけで出てしまう言葉で…口にした後にまた言っちゃったなぁと唇を押さえジーノは苦笑した。それから柔らかい内股へ何度も口付けると素直に反応を始める椿につい調子に乗りそうになる。




「…王…子」



 仄かに息を上がらせて困った表情。そして目を潤ませる椿は幼くも色気を帯びていて、それが自分のせいだと思うと独占欲が膨らむ。




 一先ず名前を呼ぶ声が手に入れたくなり自らの唇で奪うように椿の口を塞いだ。




「…ふ、…ぁ………っ…」




 長い間、拘束するように重ねた唇を離す頃には椿は目に涙を溜めていた。思わず「嫌?」と確認してしまったジーノは気弱な台詞に、らしく無いと再び苦笑した。椿が小さく首を振るのを見て安堵した内心。手放したく無いと椿の手を握った。再び唇を塞いで拒まれ無いのを良い事に手はスルリと内股へ這わせた。




「…っ…ん、んッ…」




 視界に入った陽射しに躊躇などジーノはしない。ただ、やはり困った顔をする愛犬には多少は躊躇する。




「嫌?」



 再び問われ押し黙る椿だったが、ジーノを見て恥ずかしそうにだが口を開く。その椿の態度から察するにポーカーフェイスを自負しているジーノだが少なからず不安が表情に出たかな、と余裕が無い自分に呆れてしまう。




「…王子に触られるの…嫌じゃ無いから…困ります…」



 顔を真っ赤にして椿はチラリと日の明るい外へ視線を泳がせる。




「…バッキーって何かホントに凄いよね」



 何がですか?とキョトンとする黒い瞳に自分の台詞の爆弾性は勿論気付いて無い。




「困ったコだね」






 クスリと笑うと、後は問答無用と視線を送りジーノはカーテンを閉めた。















おわり
 
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