本7 その他CP

□構いたくなる事情
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ワタバキ(つかワタ→バキ)
マジか…
そんな危険を感じた方は引き返して下さい。









「椿君♪」

U-22の代表に選ばれ、椿はカタールの試合会場に居る。施設は広く充実していて何か不図ETUのキャンプを思い出し苦笑する。…住めば都。それも過った。

呼ばれて振り返ると視界に綿谷の姿を捉えた。着いた早々で少しばかり時間がある。荷物を置いて知ら無い施設で緊張しながら歩いていると声を掛けられた。他には誰もい無い。

綿谷を振り返った椿は改めてその顔を見る。穏やかそうな笑みは何処か掴み処が無く、ただでさえドジな自分が何やら下手を打た無いか、たいして年の差も無い相手に椿は少々緊張を走らせた。
というのも先刻"試して良い?"と声を掛けられたその表情と同じだったからである。


「試合、頑張ろう」

「え、…あ、ウス!」

にこり、と笑い手を差し出され椿はつい内心に構えてしまったのを申し訳無く思い慌てて手を差し出した。

「………ぁの…?」

普通に握手を交わしたつもりの椿は直ぐに手を緩めたのだが、綿谷の手は離れる事無くしっかりと椿の手を握ったままである。椿は目を丸くし伺う様に綿谷へと視線を送る。

「椿君ってコイビトいるの?」

「は?」

試合とは全く関係無い思いも寄らない台詞を頭の中で復唱した椿はキョトンとなる。綿谷の表情からは如何いう意図でそんな事を聞いて来たのか分からず、椿は気の抜けた様な声を出し綿谷を見る。単なる興味にしても手が離れ無い理由が分から無い。

「…な、な…何…っ」

…でそんな事を聞くのか、と尋ねたかったのだが急な問に椿は動揺し呂律が回らず口をパクパクと動かすだけで言葉は出て来ない。

「居るの?居無いの?」

「あ、あ…の…」

"誰か"を問われてる訳では無いので簡単に答えれば済むのだが、椿は頭の中が白くなってしまい答えに詰まる。綿谷はそんな椿を暫く眺め、ゆっくりまた「居無い?」と尋ねる。しかし動きを見せ無い椿に、間を空け今度は「居る?」と尋ねると戸惑いを見せながらも漸く椿が頷いた。

「…へー」

意外そうな声色に椿は押し黙る。そう言って良いのかまだまだ己の自信の無さに憤りを感じつつ"コイビト"からは即答で無いのを叱られそうだと眉を下げた。

「まぁ、何方でも構わないけど」

問に対してかコイビトを思い出してか耳まで赤くした椿を見ながら綿谷は握手している手をやっと離す。緊張と共に解放されホッと安堵した椿だっがそんな油断に今度は反対の手で椿の手を取り引き寄せた綿谷は自分の頬へと椿の掌を宛てがった。

「わ、綿谷さ…ッ」

「椿君」

名前を呼び椿の視線を自分へと向けると椿の掌に頬を摺り寄せる。勿論、椿の反応が見たくて態とやっている。耳まで赤くした顔と困って潤んだ瞳に思わず口角を上げた綿谷の唇が手の平を掠めると椿はビクッと身体を強張らせた。如何いう状況でこんな事になっているのか、椿には"上手に"等対応する術等持ち合わせてはい無いし緊張すら隠せ無い。オロオロと目を泳がせる姿は初日の挨拶の時と同じだ、と綿谷は失笑する。

「面白いねー、椿君て」

「…あ…の、俺…、からかわれて…るん…ス…か?」

「ん?」

眉根を寄せる椿に綿谷は笑うのを止める。

「違うよ」

いや、違わ無いかなー、何て続ける綿谷の軽い口調に椿は困惑する。何か兎に角対応の難易度は高い、とそれだけは確信した。

「コイビトが居ても居無くても、どっちでも良いんだけどね」

「は、はぁ…」

現在の椿は脳の許容量は越してしまいボンヤリと返事を返す。試合後にも見せ無かった目元の草臥れた様な気疲れしてる様なのが綿谷からも分かり自分がそうさせたとはいえ…これから試合なんだけど、と肩を竦める。

「俺でも大丈夫か、試してみない?」

「…………は?」

案の定、パチクリと大きな目を開いて思考の限界点を越えに越えてしまった椿は倒れてしまいそうに見えた。よくもまぁこんなに素直に…無菌的に育ったモノだと希少価値すら感じる。今まで周りには居なかったタイプだと綿谷は再び笑いを零した。新しい玩具を見つけた様な内心の高揚はこの後の代表戦と共に楽しみである。






おわり
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