本7 その他CP
□こわいものとは?B
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モチミク
帰路につくのに緊張等した事あっただろうか。三雲はそんな事を思い黙々と歩いている。緊張の原因は分かってる。一度瞳を閉じてから改めて横目で伺う。…視線の先には持田。
自宅に帰ら無い理由を聞くのもきっと既に機は逃している。知ら無い間に部屋に入られるよりは幾分もマシだと現状を甘んじて受けるから密かに吐く溜息は大目に見て欲しいと三雲はオートロックの操作盤に自室の鍵を翳す。
「静かで良いよな、此処」
黙って歩いていた持田がマンションをクルリと見渡し乍、がそう口にする。
「持田さんの処だって……」
自動ドアが鍵の解錠と共に開く。持田の住むマンションの方が此処より高級感漂うかなり豪華な処だ。A棟、B棟なんて安易な棟名でも無く、4棟程に分かれた大きなマンションであるが確か持田の棟名は"アースの棟"とかだった様なのを不図思い出す(持田が棟名に爆笑していたのも思い出す…)。中にコンビニの様な物もあり簡単な買い物も建物内で可能だ。カフェもあったと記憶を甦らせ、改めて凄いトコに住んでるなと思う。しかも、その最上階にフロア全部を買って住んでるとか…同じチームで今こうして目の前で会話してる人がそうだと知っていてもとても想像はつか無い。勿論、トップクラスの実力と威圧感はあるが、こうして一緒に歩いていると少しだけ身近に感じるから。
「俺ん処は、五月蠅ぇの」
「…………」
何が、とまでは怖くて聞けない。練習後に変にダメージも受けたく無いから、足早にエレベーターへ向かう。オートロックの解錠に合わせてエレベーターは下へ降りて来るから(使用中の場合は別)、エレベーターの前へ辿り着く時には乗るばかりに開いている。新しいトコは凄ぇな、と後ろで持田がからかう様に笑っている。
エレベーターに乗ると密室空間な所為か気まずい。其れを感じてるのは自分だけだろうが、たかだか数秒が三雲は長く感じた。
「……って、え?」
自分の部屋のある階に到着する前にエレベーターが止まる。今、何階だったかとエレベーターの電子盤を見たが、フッと電気も落ちてしまい暗くなる。
非常の事態にゾッと背筋に電気が走る様な感覚がした。
即座に持田に何かあってはいけ無いと脳裏に過ったのは、其れだけ持田の存在が自分の中で大きいからだと妙な処で実感する。
「直ぐ非常用の電源でも点くだろ?」
けろりとした普段通りの持田の声色に多少なりとも思考が冷静になる。非常時用のボタンを押し、外部との連絡を試みる。
「……なぁ」
「…っ、持田さん…っ⁈」
ボタンをまだ2、3度押した程度なので応答は無い。しかし、薄暗い中急に持田に背後から声を掛けられ肩に顎を乗せて来られたので、三雲はビクっと身体を震わせた。
「な、何ですか…?」
「怖い?」
「え…?」
「ホラ、お前こういうの駄目だろ?暗いし、狭いし、其れにエレベーターって案外そのテの話多いし」
「…………」
正直言えば考え無い様にしていた事なのだが、恐怖を煽る持田の台詞に嫌でも考えが過ってしまう。
「…アレって今も動いてんのかな?」
何気に恐怖を煽っておいて持田は話を進める。三雲の肩に顎を乗せ、乗せて無い反対側には腕を乗せるとまた三雲がビクっとなる。持田の息が耳に掛かり笑ったのがわかった。バツが悪そうな表情をする三雲だが、薄暗い中では互いの表情も良く分からなかった。
三雲の肩に置いた手をそのまま持田がエレベーターの上を指で示す。目を凝らして三雲が指の先を辿れば、其処には防犯カメラがあった。
「電源が落ちてるなら今は動いて無いんじゃないですか?」
「んー…」
持田が如何したいのかイマイチ良く分から無い声色だった。兎も角、早くこの状況から脱しなければと三雲が再び非常用ボタンに手を伸ばしたが、手は後ろから持田に掴まれた。
「な、何………んッ」
首筋にまるで食いつかれるみたいに食まれて三雲は身体を強張らせる。
「……ン、んッ」
無駄かも知れ無いと思いつつ、静止の言葉を口にしようと振り返るが、唇もあっさり塞がれる。躊躇無く侵入して来た舌の感触に立っているのも儘成らずエレベーターの壁に背がぶつかった。
「……ん、…ぁッ」
よろめいた三雲の背を支える持田の手に一瞬は安心したのだが、反対側の手がTシャツには覆われてい無い鎖骨を強めの力でなぞられる。
どのタイミングでこんなスイッチが入ったのか、持田の行動に不安気に三雲は視線を送る。
「滅多に無いじゃん、こんな事」
三雲の不安等余所に持田は喉を鳴らす様に笑った。
「…ちょ、…持田さん…っ」
鎖骨をなぞっていた手は次第に下り胸に触れる。目を見開いた三雲と視線が合った持田はニヤリと口角を上げる。会話をした訳では無いが、まさか、と目を狼狽させた三雲に、じゃあ期待に応えなきゃな♪と持田の笑み。否が応でも身構えてしまうから、身体は緊張して堅くなる。
「…っ、ぅ…んッ」
胸の突起に持田の指先が押し当てられる。微妙な強弱をつけ動く指に三雲はじわと身体を泡立たせた。
「待…っ、持田さん…っ」
小さく震え、こんな処で…と困惑した表情で持田を見上げたが逆効果でしか無い。獣みたいにチラリと覗いた持田の舌の赤さに情け無いが今の自分は小動物に相違無いとすら思う。背は既に壁に当たっていてこれ以上引く事は出来無い。まだ小動物の方かちゃんと抵抗しようと試みるだろう、しかし、目の前に居るのは"好意を抱く天敵"という最大に手に負え無い存在である為抵抗の仕様も無い、と考えが過らせていると再度、唇が塞がれた。
「…ン、……んんッ」
深く重ねられた唇に何度も意識が飛びそうになる。いや、重ねるなんて生易しいモノじゃ無い。如何応じて良いのかそんな状態では戸惑うだけだった。壁を背にしていなかったら間違い無く倒れている。
「…ッッ!」
意識を保つのに精一杯だったから気付か無かったが、持田の手はズボンへと伸びていた。何時の間にか下ろされたジッパーから自身を撫でられ三雲は慌てて身体を離そうとするが、それは出来ず足の間には持田の足が態と割り込んで来る。悪戯に擦り上げられて何とか抑えていたが声が漏れる。
「……ふ…ぁ…っ」
「…濡れてきた」
何度と無く探る様な足の動きに身体が反応を示すと、耳元で持田が笑う。その息がかかるだけでも三雲の身体の熱は上がった。
「…持田さ……」
上昇するばかりの熱に堪えられ無くなり、三雲は無意識に持田の服を掴んだ。
「あ…」
その時、フッとエレベーターの明かりがつき何事も無かったかの様に稼動を再開した。大丈夫かよ、と持田も何事無かったかの声色で三雲から身体を離した。エレベーターは三雲の部屋のある階でキチンと止まり、急に落ちたりドアが開いてるのに動いたりし無いかという不安も余所に普通に動いていた。
エレベーターから下り、服装を急いで整えた三雲は異様な疲労感と共に自宅ドアを目前にする。
「一応、管理人かエレベーター会社に電話しとけよ」
「あ、はい」
三雲が携帯を取り出すのを眺め乍、持田はつかつかと部屋までの廊下を歩き出す。三雲との距離が縮まり、電話をかける三雲の肩をポンと叩いた。
「中入ったら覚悟しろよ」
背後の持田の声に三雲は息を飲み、耳に当てた携帯を落としそうになる。正直、熱のやり場に困っている状態なので思わず身体を押さえた。
「それと…」
持田が続ける。
「俺より恐いモンがあるとか、許さ無ぇからな」
「…....は?」
持田の台詞に三雲はきょとんとなった。持田は三雲に構わず勝手にドアを開け部屋へと入って行く。
閉まるドアの音を聞き乍、何でも一番になりたがり過ぎです…と暫くポカンとする三雲だった。
おわり