本7 その他CP

□こわいものとは?@
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モチミク





ずし、と急に身体が重くなる感覚に、はっと目を覚ます。
試合が近い夜は緊張というか気が張っている所為で偶にこんな感覚になる。情け無いな、と自分の額に手を当て一呼吸する。真っ暗な部屋で次の瞬間、三雲はギクリとした。
額へと上げた手の肘のあたりで柔らかい様なさわさわと揺れる感触がした。そして、未だ身体が重い。

感覚がリアル過ぎて一気に目が覚める。金縛り…、というのとは少し違う様な。窓からは深夜である暗さを視覚で確認する。何かの番組で、真っ暗にした方が睡眠の為には良いと聞いた事があるから(部屋を真っ暗ににして寝ることによって、脳から睡眠を促すメラトニンというホルモンが分泌されるらしい。メラトニンは今が活動しなければいけない昼なのか、それとも今が休まなくてはいけない夜なのかを脳に知らせ、体内のリズムを整える働きをしているとか)身体の為にはと思い明かりらしい物は点けずに寝ているが、正直云えば…………暗いのは少し…、苦手…なのだ。ホラー的な物とか……所謂、おばけ…とか。

冷や汗が首筋を伝った。ゴクリと息を飲む。自分は全く動けずに固まった儘、心臓だけは速度を早めていた。
目の前の影が動く。未だ目が暗さに慣れ無いから其れが如何動いたか迄は分からず、しかし、布が擦れる音と重みの変化にびく、とだけ身体が震えた。

そして、動け無い儘で居るから上げた手もその儘で、次の瞬間にはグッっ掴まれた。

「……ひっ……」

「……ぶっ。……くくく…っ」

腕を掴まれた、そう身体を強張らせた処で聞いた事のある笑い声に三雲は目を丸くした。同時に現実に引き戻された空気の変わり様に脱力する。

「……も、持田さん?」

目を凝らして影を捉える。
伺う様な三雲の声色に笑い出した儘止まら無い様で、身体をすっかり預けて来たから重みはさっきより増す。先程のさわさわとしたモノが髪の感触だと、遠慮も無しに突っ伏して来たから其れが頬に触れ、鼻を掠めた整髪剤の香りに確かに持田だと確信した。

「お前さー…」

三雲の問いに返事をする気は無いらしい、笑ったまま持田は掴んだ三雲の腕をヒョイと持ち上げた。

「トリハダ立ち過ぎじゃね?」

そう言うとまた、喉を鳴らす様にくくっと笑う。
持田も見えているかは分からないが、触れた感触で分かったのだろう。三雲自身も視覚でははっきりとは見え難いが、其処迄の状態かと触れてみれば確かに大変大袈裟な迄に鳥肌が立っていた。

「……ぅわ」

思わず自分でも呆れるくらいの状態だ。持田はそんな三雲の反応に、ニヤリと口角を上げた。
持田の表情を暗いなりに見上げた三雲は影が持田だと分かるとさっきまでの自分が恥ずかしくなる。しかし、誰か、いや、もっと言えば"何"か分からないモノに腕を掴まれれば自分で無くても同様に恐怖に陥っただろう、と内心言い訳する。持田の手もゾッとするくらい冷えきっていた所為もある。

「持田さん、また…」

知ら無い間にウチへ上がるのは止めて頂け無いんですか?…言葉は出て来ず、それに只恥ずかしさを誤魔化すだけに出た言葉だったと喉で止まる。言え無いのは言ってみて万が一"来なくなってしまう"のは嫌だと思ったからだ。自分の思考も相当深みに嵌っていると眉を下げる。

「実は怖がり?」

「……えっ…⁈」

三雲の言いかけた事等知った事じゃ無ぇと持田は話を進める。今迄メンバーにすら気付かれていない事を持田にサラリと言い当てられて、三雲は言葉に詰まる。結局、肯定をしてるに相違無い態度に三雲はしまったと顔を顰めた。何処迄見透かされてるんだろうと益々三雲は言葉に詰まり墓穴を掘る。何方にせよ声色で持田が其れに気付いたのにも違いは無く、表情等見え様が見えて無かろうが一緒かと三雲は観念した様に目を閉じた。

「本当、凄ぇトリハダ」

「……っ…わッ」

追及でもされる覚悟でいたのだが、突拍子も無い持田の行動は三雲の脳の予測する範疇を超えている。持田は意味深な笑みを浮かべると、三雲の腕をとった儘ペロリと舌を這わせた。

「…ぶはっ、増えた」

「…ぅ、あッ…ちょ、ちょっと…、持田さんッ」

鳥肌は益々立ち、持田に何故か異様に面白がられる。肩を揺らして笑う持田は新しい玩具で遊ぶみたいに、戸惑う三雲は気にせず腕に舌を這わせ続ける。

「……っ、ふ…」

ざわりと背筋に痺れが走り三雲は咄嗟に反対側の手で口を覆った。別の感情が上回って暗い部屋でも怖さは無く、それより持田に意識を持って行かれそうで其れ処では無い。

「色々、面倒な事が多くて…ウゼェ」

「…っ、は?」

「お前くらいが調度良いわ」

不意に持田がそんな事を口にする。意図する処は自分が踏み入れて良いモノか三雲は相槌も入れられず黙り込んだ。
何があるとか、あったとか必要ならきっと尋ね無くても持田から話すだろう。

其れでも、自分と一緒に居て持田が気楽そうに笑って居られるなら其れで良いと思う。


密やかに今、持田からの他愛無い台詞で滅茶苦茶嬉しくなった、とか其れは内緒だ。


「……も、ち…ださ…っ」

執拗に腕を舐められ、指先が試す様になぞる。冷たかった筈の持田の手が熱いとふと気付き他に何をされる訳では無いのだが、妙に変な気分になってきて三雲は声を上擦らせた。

「持田、さん…っ。ちょっと…もう…」

これ以上鳥肌も出ませんよ、と三雲が持田の肩を押す。散々好きにしておき乍、まだ遊び足り無いと憮然と三雲を見下ろす持田は間違い無くおばけ(笑)よりよっぽど怖い、と誰もがそう思えるが三雲は少々?迷走気味だった。

「じゃあ、別のトコにするわ」

「……っ」

スルリと持田の手が三雲の内股に伸びる。

連鎖するのだろうか?

「……っく、くくく。凄ェトリハダ」

足も如何やらそうらしい…。

遠慮も無しに大笑いを始めた持田に三雲も苦笑するのだった。






おわり
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