本7 その他CP

□road home
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タンザキ




本日は大変良い天気で、オフとしては嬉しい位とても気持ちが良い。
出掛け様かと思ったが、手にした携帯を暫く眺め丹波は矢張り家で過ごそうと何と無くそのまま腰を下ろした。

…いや、何と無くでは無かった。
其れなりに理由はあるのだ。

快晴な青い空へと視線をやり、気持ちは正直云うと空とは正反対にどんよりと重たかった。

五輪予選選抜が済んだのはTVを見て知っている。試合に集中したいだろうし、違う土地での生活も忙しいだろうと試合が終わるまでは連絡せずにおいたのだが、我慢の限界も本当にもうギリギリで終わったなら連絡しても良いかな、と愛しい後輩へ電話をした。しかし、電話には出無い。メールもしてみたが見事に音沙汰無しと来たもんだ。一度はムッとし無くも無かったのだが、不意に10も年の差があるし先を考えて遂に冷めたのか…いや、醒めたのか、と重たい感情が降りて来た。それが現実と云えばそうかと良い大人として分かってはいるし、側に居てくれたのもよくよく奇跡に近いと思う。

らしく無ェなー、と悪い考えばかりに思考が囚われている自分に、口調は軽くだが丹波の心境は雨でも降りそうな曇り空だった。

気晴らしに出掛け様としたが其処までの気分にすら成れずに床に座り、ぼんやりと手にした侭の携帯を見詰めて居た。
そんな折、インターフォンが鳴る。出る気も起き無くて面倒臭がり無視を決め込んだが嫌がらせ宜しく鳴り止ま無い。


いや、無視だ。


「…………」


居ませんよー、と。


「…………」


インターフォンは只管に鳴り続ける。


長げ。


何処の何方様だ、こんなガッツのある奴は。……石神か?いや、石神にガッツはあったかなー?(失礼)と確認もせず然し他に思い当たる節も無く、決め込んで「はいよ〜」なんて空元気全開で気楽にドアを開けた先には…今、正に想い馳せて止ま無い赤崎が立って居た。目を大きくしポカンとする丹波を怪訝そうに見る。

「遅い」

玄関先に出るのが遅くなった丹波へと吊り上がる目尻、物怖じし無い口調で何処か偉そうな態度も、後輩の癖に…何て怒りたくなるが懐かしい。予想外の急な訪問でしっかり動いてくれ無い思考の中、久しぶりだが間違い無く赤崎だ、と心臓が跳ねた。

「赤……っ」

ずっと赤崎の事ばかり考えていた矢先、いや暇さえあれば考えてたけど…その赤崎が目の前に居る。某然とする丹波に愛想も無くずいっと部屋へ入って来る姿は良く知る頃と変わら無い。連絡を寄越さ無かった事に一言くらい何か言ってやろうと口を開いたものの丹波は困惑し押し黙る。赤崎も一言言うなり丹波の肩へ顔を埋めて来たから丹波は文句なりおかえりの一言なりのタイミングを逃した。

頬に赤崎の髪があたる。唐突過ぎて実感が湧か無いが擽ったくて心地良い。だから連絡が無かった事等帳消しで良いと、自分の甘さに苦笑してしまう。

「…あ、あのなー、赤崎。せめてメールくらい返せよな」

甘い自分を誤魔化す様に赤崎にそう言い赤崎の肩へ手を置く。返事も無いが抵抗も無く、単純だが自分の悪い考えは杞憂であると都合良く思ってしまう。

「…返そうとしたんスけど」

ぽつりと赤崎らしく無い小さな声に更に期待する。

「何、打って良いか分かん無くなるし、長くなるし、また打ち直して…短か過ぎか…とか、色々…っ…」

そう話乍らみるみる赤くなっていく赤崎の耳に丹波の口元は緩む。

「電話も何か、こんな状態だと何話して良いか訳分から無くなりそうだし、余計な事…言いそうだし…」

俯いたまま珍しく口調も言葉も纏まら無い赤崎に、丹波の中ではすっかり外と同じ晴天となっていた。単純だな、と自身にツッコミたくなる。

「そんなの友達感覚で気軽に返してくれりゃ良いのに」

そう軽く、負担をかけないつもりで丹波が言うと赤崎は暫く口篭る。

「…だ…って……アンタは友達じゃ無くて…」

…恋人だろーが、と内心の気恥ずかしさの葛藤を表す微かに聞こえる声に、丹波は目を丸くする。本当に連絡無かったなんて些末な問題だったと、赤崎の肩に置いてた手を背にまわす。
そうして抱き締めたら本当に赤崎が帰って来たのだと実感し笑みが零れた。

「あー、帰って来ても可愛いまんまだな〜♪」

「…何、馬鹿言ってんスか。…本当、丹さんも全く変わってませんよ」

呆れた口調も何だか懐かしい。チームが同じだと毎日会えるって良いな、と今更の再確認をする。

「…つか、荷物下ろして良いスか?」

「へ?…あぁ」

はた、と気付けば赤崎の両手にはしっかり荷物が握られたままだった。下ろしもせず肩に寄せられた顔は引き際を迷い未だ赤い。この様子だと自宅へも行かず真っ先に自分の処へ来てくれたのだと、丹波は返事をし乍ら抱き締める手を緩められ無い。

「離してくれ無いと、いい加減重いんスよ」

「今は何言われても可愛いかもなー」

だって、自分からは離れ様とし無いじゃん♪と、其れは口には出さず、でも機嫌を損ねてもいけ無いと、丹波はゆるりと腕を緩める。離した手は再び温もりを求め赤崎の手を握り、僅かに動揺を見せるその手から片方だけ荷物を受け取る。

空いてる反対の手で赤崎の顎を持ち上げると軽く唇を重ねた。

「……な、……っん…」

「赤崎」

名前を呼ばれ、久しぶりの感触に目尻を赤く染めた赤崎が、何スか?と精一杯目を吊り上げ丹波を見る。そんな、勝気な処も可愛いらしい。…やっと視線が合ったな♪と丹波は嬉しそうに笑う。

「おかえり」

「 …ただいま」

思ってる以上に嬉しいそうに笑うから正直、悪い気はし無い。
丹波に照れながら返事をする赤崎はやっぱり可愛い、と丹波は赤崎の手を引き晴天に何と無く感謝した。




おわり
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