本7 その他CP

□one's way back
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タンザキ


他人の視線って、やっぱり気になる。
それでも、ふとそんなスリリングさもたまには良さそうじゃ無いですか?
…なんて事を移動バスにて斜め前の窓側に座る後輩に念波で尋ねてみる。

勿論、伝わりませんよ(笑)。

「あれ?何スか?」

念波ではそりゃ無理だと丹波は送り先の主の隣へと座る。さっきまでこの椅子を温めて居た世良は自分の所と交代した。

さっきまで丹波が座って居たその隣は堺である。横目で代わってくれた御礼を言うと丹波の意図等考えもよら無いから「何スか?」と首を傾げたが深くも考えず、素直に嬉しそうなそんな世良とは対照的に、やはり「何スか?」と怪訝そうな顔をする赤崎の隣へ丹波はにんまり笑い返す。

「やー、勝った試合はやっぱ、気分良いよなー♪」

「そりゃ…」

「キスして良い?」



「……馬…ッ」

前振りも手短にそんな事を口にすると、微妙な間の後ガタンと大きな音をたて赤崎が立ち上がる。即、危ねーから座れよ!と黒田に叱られる。渋い顔をしてスンマセンと謝る赤崎に、丹波は先輩の威厳も少なく睨まれた。
会話は少し小声で続けられる。なんか楽しい♪なんて気楽な先輩は後輩に睨まれた処で口の端は上げたままだ。

「怒られたじゃないスか!」

「えー?俺のせい?」

「アンタが変な事言い出すからでしょーが!」

「駄目?」

「駄目っつーか、今、自分が何処で何してるか分かってます?」

「移動バスにて赤崎にお願い」

「…駄目でしょーが」

キッパリと赤崎にそう言い捨てられてしまい冷たい態度の赤崎は視線逸らし視界は丹波から景色へと移動する。少しの間はそれで大人しくして居た丹波だったが残念ながら長続きはし無い。

「な、」

窓に手をつき丹波に距離を縮められ、赤崎は息を詰めた。

「何、考えてんスか!」

「別に軽くだけど…」

「そういう問題じゃありませんよ」

「嫌?」

「嫌です」

「嫌なの?」

「あんましつこいと怒りますよ」

「怒った顏も可愛いーけどな」

さらりと恥ずかし気も無く丹波がそんな事を言ってのけ笑う。何、馬鹿言ってんスか、と怒る気もそがれたのか赤崎から呆れた声色で返答が返って来る。

「二人きりなら良いって事?」

「…粘りますね、つか、退いて下さい」

「今、キスが駄目なら、二人きりの時にほっぺにちゅうしてくれる?」

「はァ⁈」

次なるお願いに赤崎は怒るべきか呆れるべきか一発くらい殴っても良いものか、結局どれもし無いままパクパクと口を開いたり閉じたりした。

「何なんスか、その二択!」

「是非!」

「是非じゃ無ぇよ!大体、何で今、此処で、したいんスか⁉」

「いやー、何かこー…何時もより凄げードキドキしたい?みたいな?」

「別に何時も凄げードキドキすっから必要無いっスよ⁈」





「へー」

「……ッ!」

確実な墓穴に赤崎慌てて口を押さえたが手遅れである。
先程と同じくにんまり笑う先輩へ抵抗も虚しいがもう一度睨みつけてみる。

「で、二択は何方に?」

「…………」

…まぁ、無駄な抵抗だったな。

赤崎は小さく息を吐く。

…良いっスよ、もう、この際。

ギッと先輩に対して後輩としての謙虚さ等微塵も無く目を釣り上げる。一瞬試合時の気迫を感じて何を言われるのかと丹波もさすがにたじろいだ。
しかし、赤崎の一言は丹波の予想に反した。

「二択なんてちゃっちい事言って無いで両方しましょうか?」



「マジで⁈」

ガタンと音をたて、…以下略。危無ぇだろ、子供かよ!と堺からのお叱りを受ける丹波。

「怒られました!」

「俺のせいスか⁈」

「まー、いや、それは良いんだけどー、赤崎」





「オトコに二言は」

「……っ…無いスよ」


揺れるバスの中、性格故に口走ってしまった自分に普段あまりし無い後悔をしつつ、近付いて来た丹波の表情が普段は見無い二人きりの時の表情な事に赤崎は息を飲む。それでも覚悟は決めたみたいな潔さと僅かに赤い頬と多分、言葉通りW凄ぇドキドキWするのかさっきまでの釣り目に覇気も無く、丹波は思わず撫でて抱きしめたい衝動を微かな口付けに留める。

どう、だったかなんて聞く必要は無いくらい顔を赤くした赤崎は動揺を見せまいと清ました表情をしていた。そんな"つくっている"のがわかってしまい丹波は苦笑する。

「…何、笑ってんスか」

「失敗したなーと思ってさー」

「はぁ?」

眉間に皺を寄せる赤崎に丹波は明るく笑う。

「此処じゃもー何も出来無いな」

「つか、もう何もしませんよ」

「あー、早く家帰りたいなー。抱き締めたいし、もっとシたい、触りたい、舐めたい、されたい」

「…言わ無くて良いスよッ」

自分の頬を指し再度、二言は無しね!と釘を刺され、ぽふぽふと赤崎は頭を撫でられる。
小さく吐いたため息は、これから数時間先の楽しみに嬉しそうに笑う先輩には気付かれる事は無く、何とも複雑な心境の赤崎は再び視線だけ外の景色に逃がした。

「………くそ」




…凄ぇドキドキする心臓を密かに押さえて…。




おわり
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