本5 その他CP
□ETU羽つき大会
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ガミホタ+キャラ多め
「けーんじくん♪」
「お…おはようございます…」
朝っぱらから近所の友達を呼びに来てるような気の抜ける石神の軽〜い声で起こされる。寝ぼけてでは無く呆れて、とりあえず挨拶だ、と返事をした律儀な堀田はおかしいなと思いながらカレンダーに目をやる。
因みに年越しから年明けへと石神と一緒だったので「明けましておめでとうございます」の挨拶はベッドで済ませたので、今は「おはようございます」で問題無い(余談)。
今日はまだ正月休みの最終日。練習はまだ明日からだというのに早々と何の用だろう…。堀田は口には出さないがじっと石神を見れば、ちゅうと口付けされて硬直させられた。
「悪ぃ、うっかりしてた」
「…いや、ガミさん…こういう事を訴えたんじゃ無いんですけど…」
「あれ?違った?」
最早、違いますとツッコミを入れるのも止めにして一呼吸した堀田はテキパキと着替えを始める。
「まだ何にも言って無いけど?」
「ん、まぁでも出掛けるんですよね?」
大分付き合いも長いので堺や丹波には及ば無いが堀田も石神の行動が大体わかる。朝食は近所のコンビニで済ませるか、と考えながら石神に尋ねる。
「ガミさん朝メシは?」
「そこのコンビニで良い?」
質問を質問で返され、でもそのつもりだったし良いか、と支度を済ませると堀田はさっき聞きそびれた事を口にする。
「今日は何の用なんですか?」
堀田が支度を済ませる間、胡座に頬杖をつきベッドへ座り慣れた様子で待つ石神はすっかりこの部屋に寛いでいる。はたと馴染んでるなぁと思ってしまった堀田はそれを見てそう思える自分に慣れって凄いなとつくづく感じた。
「…堀田さぁ、羽つき好き?」
「……は?」
「羽つき」
「…………」
「よし、行くか!」
「…え、あの…ガミさんっ」
石神との会話に慣れる日は来るのか?堀田の支度が終わったのを見てマイペースに腕を引っ張る石神に先は見え無い。
時計を見たらもう11時近くだった。随分のんびり過ごしてたんだなと堀田は自分も呑気なもんだと苦笑した。
コンビニで朝食を買い(つか、時間的にもう朝食では無いが)石神について行き歩き始める。
しかし、そこは毎日のように歩く道。行き先はは直ぐに察しがついた。
「クラブハウスですか?」
「そ。今朝さぁ何と無くグラウンド来てみたら結構皆来ててさー、始まる日にち間違えてんじゃ無ぇのかってくらい。で、達海さんがじゃあ羽つき大会でもしちゃう?って言い出してさー」
成程、そんな経緯が…。”しちゃう?”のあたりが監督らしいなと堀田が苦笑する。後は暇な奴を電話で呼び出しとか練習は明日からだと皆思ってるだろうに若干酷い気もするが、自由参加らしいから良いのか?後輩達なんかは断り辛いかもな、とそんな考えも過ぎらせていると視界にクラブハウスが見えてきた。
「あれ?ジーノ。お前が来るなんて珍しーなぁ」
「練習は明日からなのにバッキーがグラウンドに行きたいって言うからねぇ。今日び散歩を嫌う犬もいるくらいなのにこの寒いのに逞しいよね」
でも王子もついて来たんスね…とは世良はジーノにツッコめ無い。あぁ、散歩に連れて来たって事で、と自己完結させて口を開く。
「…つか、椿と一緒だったんスか?王子」
聞いてみて地雷だった、と軽く後悔。
「理由を知りたいかい、セリー?」
「え、いや、いい良いっス!遠慮します!!」
グラウンドへ着くと最初に聞こえたのは達海の声。それからまさか今日顔を合せる事になると思っていなかったジーノの声だった。大型連休の後は2、3日遅れて練習に来るのに珍しい。視界にはジーノの隣で苦笑したり真っ赤になったり忙しい椿がパクパクと口だけ動かしていた。そして、地雷踏んでるぞ、とツッコミを入れたくなる世良の台詞の横で元旦早々に顔を合わせた堺が呆れた表情で立っていた。
「おーい、ガミ!堀田ぁ!」
声をかけられ振り返ればぶんぶん手を振る丹波が居た。
「あ、堀田、あけおめッ」
「あ、明けましておめでとうございます」
年が明けても相変わらず明るいなと少したじろぎながら堀田が返事を返す。ぽんと背を叩かれて「じゃあ、ガミとペアで良い?」とさくさく達海とチーム割をして話を進めてく丹波は、さすが”遊び”となると達海と良いコンビだと手際の良さに凄いなと思う。
監督の事だから何か意図あっての”遊び”だろうか。少なからず疑心暗鬼になってしまうのは日々の監督の行いのせいだと本当に思う。
「おーし!始めるぞー」
「やぁ、昔、ロレーンとテニスで遊んだのを思い出すなぁ」
「誰っスか…王子…て、あれ?何処行くんですか?」
達海の一言で渋々だったり楽しんでたりの羽つき大会が始まる。羽子板を持ってオタオタする椿はクルリと背を向けるジーノに首を傾げた。
「寒いから中にいるね。バッキーは楽しむと良いよ」
ヒラヒラと手を軽く振りクラブハウスへと向かう。数歩足を進めたところで何か思い出したかのように足を止め椿を振り返る。振り返られれば忠犬はパタパタとご主人様の元へ行く。ジーノの中でそれが当たり前でも何も言わなくても素直に自分の元へ来る愛犬に気分は良くなる。終わったらおいで、と椿の頭を撫で微笑むと赤い顔をする椿にちょっぴり衝動もあったがクラブハウスへと再び足を運んだ。
「あっはっは、派手に書かれたなー、丹波」
「うるせー、そーゆーそっちも今負けたんだから同じになんだろ」
羽つき開始から大分経った。
いよいよ勝敗もわかれてくる。
「堺も男前になったなー♪」
「ああッ、スンマセン、堺さんっ!!」
「あ?良いんだよ、別に。負けは負けだろうが」
丹波の横で同じく墨を顔につけた堺につい怯えながら世良がオタオタしていた。
やっぱり負けたら墨でしょ、と他人事全開の達海はカラカラと軽ーく笑って現在は寒いから中に入るね、とクラブハウスへと篭ってしまっている有様だ。
さすがに黒田あたりが毎度の如く怒っていたが、メンバーもそんな達海を気にしなくなって来ている。慣れって凄い。
そんな訳で負けたから墨を塗られている丹波と堺。相手は終始びくびく怯えながら堺に筆を走らせた世良。しかし堺の態度は潔いというか男らしくて…密にドキュンとなる心臓を押さえた。
「つか、容赦無ぇなー、赤崎ぃ」
「実力っスよ」
世良のペアである赤崎に茶化すような口調で丹波が話すが、赤崎はしれっと答える。
「おぉ、さすが日本代表」
「よっ♪日本代表!」
「…何か馬鹿にしてませんか?」
丹波と石神に褒められてるのか、からかわれてるのか…赤崎は顔を顰めた。
「つか、ほらお前らもさっさと塗られて来い」
丹波に石神と堀田が背中を押される。へいへい、と軽く笑う石神の先には何となく申し訳なさそうな宮野と椿がいる。
「本当に塗らないと駄目なんスかね…」
「コシさんよかマシだろ?…あれ?つか、コシさんは?」
「嫁さんの実家らしーよ」
「へー、嫁さんの」
「そう、嫁さんの」
「…………………………」
禁断領域?
「…えーと、(話を戻す)まぁ気にすんな、宮野。堺も言ったろ?負けは負けだし」
「うー…ん、後で怒ん無いで下さいよ」
石神がいくら先輩にしては気安い方でも先輩は先輩だし、試合に負けたペナルティーとして監督が決めた事とはいえ墨を塗るのは気が引ける。気にするな、と言われながらそういう訳にもいかず渋々の表情で宮野が筆を取る。
「うわ…変な感じ」
「バカボ〇のパパにしろ、宮野」
「ネタがど古いっつの、丹波」
「えー、もうこれで勘弁して下さいよ」
「…何コレ?」
「丹さん知らないですか?L…ですけど…」
「え、誰?」
「…DE〇TH NO〇E知りませんか?」
「んー?聞いた事あるような?」
石神の顔を見ながら宮野と丹波が話をする最中、宮野に顔へ墨を塗られながら石神はピタリと静かになった。怒っている表情では無いが石神はそういうのがわかりにくいし良くわからない。黙ってしまった石神に宮野が不安そうに口を開く。
「ガミさん…何で黙ってるんスか?」
「へ?………あー…うん」
考え事をしてるようにぼんやり返事をする石神は、墨を塗り終えた宮野から視線を移動させる。その先には堀田。
「…………何ですか?」
嫌な予感と掴み所の無い石神の表情に目が合った堀田は首を傾げた。「いや、別に」と返す石神は”別に”とは思え無い不審さで、まぁそれに気付いているのは堀田くらいのものだが明らかに(少なくとも堀田には)良く無い事を企んでいるように見えた。
じっと堀田を見てた石神はクルリと宮野の横に居たオドオドしてる椿へ向き直る。先輩(堀田)に”遊び”とはいえ墨を塗るプレッシャーに緊張の面持ちだった。
「なー、椿」
「あ、…は、はいっ」
石神に声をかけられビクッと椿の肩が跳ねる。
「悪いんだけど、俺に塗らしてよ」
「………………へ?…あ…いや…んと、…お願いします!」
石神からの申し出に一瞬キョトンとした椿は、先輩に墨を塗るプレッシャーから解放されて安堵する。直ぐに石神へと筆を渡した。
その横で堀田も顔を顰めた。
「…別に良いですけど、何なんですか?」
椿から筆を受け取り嬉しそうな石神に堀田は益々嫌な予感が濃くなる気がした。筆を堀田に向けた石神はニヤリと笑う。
「堀田君♪」
「……………はい」
「筆、好き?」
「………………は?」
「好き?」
「………………………」
どういう意味だろう…、良くわからない、つか全くわからない。
大体、筆に好きも嫌いもあるのか…?
楽しそうに笑う石神に、眉間の皺ばかり深くなる。取り合えず頷いてはいけない気がした堀田だった。
おまけ
「達海、今日の羽つき大会には何か意味があるのか?」
「意味?お正月だからだよ?ゴトー。何で?」
「…………何で、って…」
いつもの達海の何か考えがあっての事かと思いきや特に意味は無いようである。
一度ワイワイ楽しそうな(つか、せめてそうあって欲しいと思う)グラウンドへ視線を送った後藤は何となくいたたまれない気持ちになった。
「………何でだろうな」
「ちょっと!達海さん!!今日は一体何やってんのよ!ていうか、練習は明日からじゃない!」
バタンとドアが開き、有里が凄い剣幕で入って来た。
「おー、有里」と、年が明けても軽ーい達海に美容に悪かろうが眉間に皴が寄る。
そして、それを煽るかのような達海の台詞。
「お前さぁ…羽つき、好き?」
「な…………ッ」
「え?キライなの?羽つき」
「……なっ…、な……」
何故か急激に真っ赤になり肩まで震わす有里に達海が首を傾げ覗き込む。
「女の子に何て事聞くのよ!!達海さんのバカーーー!!」
えぇー…?
「何が?」
「………勘違いしてるんだよ」
「…だから、何が?」
「…いや」
遊びなんだからお前も交ざって来れば?と言おうとしたのだが、凄い勢いで現れ凄い勢いで去って行った有里に今年も騒がしいやつだな、と呆れた口調の達海は今年も何処か抜けている。後藤もとりあえず、有里の走り去った方へ目をやり苦笑するしか無かった。
おわり