本5 その他CP

□悪魔と踊れA
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 とある国のとある町。町のはずれに小さな森がある。そこへ入り数分も歩かない内にひっそりと静かに佇む教会がある。教会は神父が一人、暮らしていた。





 …とか、少し前の話。現在その教会には神父と、何故か悪魔が一緒に暮らしていた。





   悪魔と踊れ 第二話

 『hope & consideration』





「はぁ…」



 ここの教会の神父である三雲はここ数日からため息が絶えない。というのも先日に隣国の王子のジーノが悪魔祓いを依頼して来てからである。ジーノの愛犬(?)の椿に取り憑いた悪魔は、まず何で取り憑いたかって…理由は椿を見つけて気に入ったから、という事。別に椿が呼び出したとか封じられてた禁を冒してしまったとかそんな事は全く無く、勝手に現れて憑いていた。そして散々ジーノの邪魔をするので先日、依頼に応じた三雲に祓われ無事消えたかに思われたのである。




「また溜息かよ。暗ぇ奴」



 確かに椿からは祓われた。本人(?)があの後、何度か憑きに行ったらしいが憑けないと三雲は何やら理不尽な文句を言われた。確かにそうしたのは自分である以上、文句も甘んじて受けるべきなんだろうか。とか、考えが微妙にズレて来たのは今の三雲に気付け無かった。


「…魔界に帰らなくて良いんですか?」

↑さり気無く御帰りを願う。

「椿君に近付け無くなったけどここも悪く無ぇしなー」

↑軽やかにスルー。



……左様ですか…。



そんな訳で悪魔は教会に住まう。こんな”ショボイ教会”ではこの悪魔には普通の家と変わらず生活出来るようだ。ともかく、見た処では苦しそうな風も辛そうな素振りも無く自由気ままにしている。




「あの…持田さん」

三雲が悪魔の名を呼ぶ。さん付けで良いのか微妙だが何かしっくりくるから(笑)このままだ。持田も特に何も言わないあたりそこらへんは承諾という事なのか…。 呼ぶと視線だけ三雲へ向ける。机の上に投げ出された足。椅子に座り腕を組んだ姿はかなり態度が大きい。只、雰囲気はまるで違うが、それを見て先日御成りになられた王子様も頭に過る。

「…あの、本当に食事とか要らないんですか?」

「あ?前に言ったろ?食わなくても問題無いって。つか、悪魔にメシ食わせてやろうとか、人が良いっつーの?馬鹿じゃ無ぇか?」

「……………」



ズバズバ物を言う態度も大きい。悪魔って皆こんなだろうか…言葉を失い押し黙る三雲。でも確かに神父が悪魔の心配とかおかしいか。視線は何処という訳も無く宙の一点を眺め、ぼんやり考え事をしてると座っていたはずの持田が不意に目の前にいて、三雲はビクッと肩を震わせた。


「な…何です…」


 …か、まで言い終えない内に顎を掴まれ親指で唇に触れられる。持田の獣が獲物を見るのと類似した食い入る様な瞳に、何故か本当に食べられそうな気になってしまい三雲の心臓がドキリと跳ねた。


「それとも何か”望み”でもあんのか?俺は悪魔だからな。"対価"さえ払えば叶えてやるよ」
 
にっと意地悪く笑う持田。僅かに開く口から牙と赤い舌が動くのが見えて三雲はゾクリと寒気立つ。今更だが改めて悪魔なんだなと認識する。
そんな持田の視線にたじろぎつつも、一度深く呼吸を言われた通り"望み"とやらを考えてみる事にした。





…………。






帰って下さい。






……とか、言ったら怒りますよね。


片手で額を押さえ三雲は密かに、悪寒を走らせる。
それから、一度持田を見て本当はそんな事を自分が考えて等いないのには三雲も内心気付いている。


それはそうとして、気になる事があるのだ。
先程、問題無いと言われたが気になる事がある。口にして良いものか、暫く躊躇っていると「聞きたい事があるならサッサと言え」と無言だが持田に見据えられ、只の視線とは言えその威圧に打ち勝つのは到底無理なのを感じた三雲は口を開いた。


「…初めに会った時より痩せてませんか?」


「あ?」

ぽつりとそんな事を言われ持田が目を丸くする。如何やら持田の予測の範疇外だった様だ。きっと出会ってから初めて見る持田の表情に変な事を言ってしまったかと三雲は焦る。


「す、すみません…。変な事を…
。只、何かそう見えた…から」


「お前、面白ぇな」

何だって、会話だけでこうも心臓は忙しないのか…。胸を撫で下ろし三雲は息を吐く。機嫌を損ねたかと思いきや持田が再びニヤリと口角を上げるので三雲は内心安堵する。

「魔界と空気が違うのと…やっぱりショボくてもココは教会は教会って事だな」

「え…?」

「ちょっとずつ体力奪われてんだよな。…煩いこった」

教会を見渡し乍、口元は笑いそう話す。持田の言葉に表情程、悠長では無いと三雲の顔色は変わった。

「そんな…じゃあ…」

「いずれ死ぬ…つーか涸れるな」

持田は至って軽口である。自分を痛めつけている様な自虐的に見え、三雲は如何言えば良いのか複雑な心境になった。まだ日が浅いとはいえずっと側で見て居たのに、そんな辛苦な状態であるとは全く気付かなかった己に嫌悪すらした。

「…どうしたらー…」

そう口を吐いて出た言葉に、はたと口を紡ぐ。立場上そんな事を言って…思ってすら良いのか、と。



「魔界に帰れば済む話だけどな」



やけにあっさりとそう話す持田に、矢張り先程脳裏に過った通りが正しかったと、帰った方が良いのでは?と思い口を開く三雲だが言葉は出て来無い。その訳は後々存外自分は正直なのかも知れ無いと改めて知る。


「だからって帰る気は無ぇからな」


「死ぬかも知れないんですよ?」


「悪魔の心配する神父が何処に居んだよ、バァカ」


 そうかも知れない…


「だけ…ど」


 何でだろう、



「あー、ソレってお前の”望み”?」

「何が…ですか?」

「俺に死んで欲しく無ぇんだろ?」

「……………」




「死なない方法…あるぜ」




「……!」



持田の言葉にぱっと顔を向けた三雲。直ぐにはっとなり顔を背けた。
顔を向けた時に目が合いニヤリと持田に笑われた。
こういうのを馬鹿正直、と言うのだろう、笑われても仕方無いと溜息を吐く。
肯定してるも同然だと顔を背けたが、きっともう遅い。


「…どうしたら良いんですか?」

だったら観念してしまおう、とそう思い尋ねる。
頬が熱く感じた。だけど、自分に呆れつつ聞かずにはいられず口を開けば持田は何だか機嫌良さ気に見えた。

「ちょこーっと血ぃくれれば良いだけだ」

「……血…ですか?」


キョトンとする三雲の腰に持田が手をまわす。



「…な…ッ、ちょっ…」


「…”望み”を言えよ。対価はお前の血だ」


「望みって…ー」


言いかけて三雲は口を閉じた。本当はもう分かっているのだ。だから代わりに別の言葉を口にする。


「…わかりました。えっと…どうやって渡せば良いんですか?」



 まさかコップに入れて?



 …いや、な訳無いか。




「受け取り方くらい好きにさせろ」

呆れた口調で持田の人差し指が三雲の額を軽く弾く。持田に軽くのつもりはあるのか無いのか…赤くなった額を押さえていると、大丈夫死な無ぇから♪と何やら楽し気な持田に、額は凄く痛いんですけど、と内心で、如何にも不安が過ぎり三雲は顔を引き攣らせた。


 色々間違えた…


そう思ったが手遅れなのを確信した三雲だった。















おわり
 
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