本5 その他CP

□悪魔と踊れ@
1ページ/2ページ



 とある国のとある町。町のはずれに小さな森がある。そこへ入り数分も歩かない内にひっそりと静かに佇む教会がある。教会は神父が一人、暮らしていた。





   悪魔と踊れ 第一話

 『successful or frustrate』





 仕事といえば祈りを捧げる事や迷い戸惑う者から懺悔を聞く事など…。合間には畑を耕したり辺りを掃除したり。たまには町へ出て出張的に同様な事をしたりする。まだ若輩ながらも勤勉熱心なその神父は少しずつ慕われ始めていた。



 今日も普段通りだった。





 コンコン





 …ドアさえ叩かれなければ。




「やぁ、ミック」



 神父の名は三雲という。軽く片手を上げ昔からの友人のように自分をそう呼ぶ隣の国の王子に明ら様に嫌そうな顔をする。



 王子の名はジーノ。別に二人は仲良しというわけでは無い。ジーノの方ならば隣国の王子でもあるし三雲も顔は知っているという程度だ。



 何故そんな王子様がこんな所に…?




 顔を顰める三雲がジーノを見れば初対面にも関わらずの気安さなど気にもしないマイペースな王子様は王子宜しく気楽な感じで余裕もたっぷりに、にっと口角を上げた。




「何の御用なんですか?」




「随分な態度だなぁ。わざわざ僕が足を運んだっていうのに」




「王子が共も連れずに無用心ですね」




「まぁこの辺りは平和だからね。それに一応共が居ないわけじゃ無いんだよ」



 ジーノは言いながら教会の扉に視線を送る。三雲もそちらを見ればガタン!と開いたままの扉の方から大きな音がする。




「ほら入れるかい?バッキー。入っておいでよ」




「は、はいっ」



 恐る恐る中へ確かめるように足を踏み入れて呼ばれた者が入って来る。



 かなり頼りなさそうだがこれが今日のお供だろうか…。やはり無用心だと三雲は呆れた。




「僕の愛犬が悪魔に取り憑かれちゃったみたいなんだよね。祓ってくれないかな」




「……………は?」




「ココ教会だし中に入れるか心配だったけど憑かれてても入れるんだね」




 そう言いながらそろそろと隣まで来た共の者の頬を綺麗な長い指で撫でる。




「…お、王子…」




「身体辛く無いかい?」




「は、はい。…大丈夫…みたい…ス」



 そう、と優しく微笑む王子様に真っ赤にした顔でくらくらする共の者とは対照的に三雲も別の意味でくらくらする頭を押さえた。唐突な依頼に付け加えスルリと華奢な肩を引き寄せるジーノに狼狽える共の者。何だろう…。何だか出てるオーラが妙に甘ったるい気がするのは気のせいか?三雲の顔が引き攣る。





 黒い髪をふわふわさせて黒い瞳をくるんとさせて戸惑い引き寄せられた肩にオタオタしながら顔を赤くして、見てるこっちが心配なくらい頼り無い。わかるのは王子様がかなりお気に入りのようだ、という事。愛犬??人間に見えるが…。しかし、三雲は深いとこへは何となくツッコめない。歳は自分より若そうだ。つか、子供に見える。名前は椿というらしい。



 話によると数日前から悪魔に取り憑かれた、という事。何か開けてはいけないモノを開けたとか、魔法陣のミスという事も無い。本当に普通にボールを追っかけて走っていたら(何処が普通だ?)急に取り憑かれたとか。何と会話も出来るらしい。ちょくちょく現れては椿から離れる気は無い、の一点張りだとか。




「お陰でここの所、バッキーに何にも出来ないんだよね」




「…ちょ…王子…っ…」




「……………」



 目の前で軽くイチャつかれ三雲がげんなりする。ちょくちょく現れる、ってそりゃちょくちょくイチャついてるからでは?とか思えてくる。




「…あぁ、来たみたいだよ。ミック」




「………え」





 まだ昼間だというのに辺りがどんより暗くなる。…空気が変わった。




「モッチー…そろそろバッキーから離れてくれないかな?」



 出て来たのは確かに風貌は悪魔と呼ばれるそのものだった。風貌よりも得体の知れない威圧感と脅威的な雰囲気に背筋がゾクリと震えた。




「えー、椿君可愛いから気に入っちゃったんだよね。王子サマこそ気前良く俺に譲ってよ」



 口調は割と穏やかそうだった。業とらしくも聞こえるが…。ずいっと近付く悪魔との距離に椿がオタオタする。その姿も悪魔にしてみればお気に入りの要素の一つらしくニヤリと意地悪く笑う。




「あ、ああああの…っ」




「ぶっ。…くっ。はははっ。面白いねー、椿君は♪」




「これは僕のだからあげないよ。早く魔界とやらに帰ったらどうだい?」




「ヤダね」




「………………」




「………………」





 交渉決裂。



 王子様と悪魔(?)との間に挟まれ椿が半泣き状態だった。現在第三者である三雲から見ればどっちもどっちな気がするが、要するに椿の取り合いらしい。沈黙が怖い…。さっきのジーノとのやり取りをみれば無駄だろうが三雲は悪魔へと尋ねる。




「あの…モ…?」




「持田だよ」




「えっと…持田…さん?(さん付けで良いのか?)離れる気は無いんですか?」




「無いよ」




「……………」



 うーん、話が続かない。




「…そ、そういえば持田さん…ここ教会ですけど…出て大丈夫なんですか?」




「心配してくれんの?椿君。優しーね♪」




「へ?あ、いや、別に…」




「こんなショボイ教会くらいなら全然平気だし」



 ショボイですか…。確かに悪魔らしい持田は教会という神聖な場所に居るにも 関わらず平然としている。



 まぁ何はともあれ、



 聖職者だしやる事やるか。



 ↑何か投げやり。




「やぁ助かるよ、ミック」




「…へぇ?お前如きが俺を祓う気でいんの?」




「………っ…」



 ジーノの声を聞く反面で視界に自分を睨みつける持田に得体の知れない恐怖感。



 まだ若輩者の自分が祓うなんて出来るだろうか?三雲はゆっくり十字をきった。




「…ーわ…ッ…」



 ジーノには何とも無いようだが憑かれている椿には衝撃がかかる。ぎゅと目を閉じて倒れそうな圧力に身体を押さえれば、ジーノも察して椿を支えた。



 一瞬、光と嵐のような風が辺りを包む。










 しん、と静まり返る教会はどんよりした暗さも何処へやら…明るさを取り戻した。





 ちゅ





「「!!!!??」」



 椿が目を閉じてるからって当たり前のように唇に口付けを落とすジーノに、された椿もだが目の前で躊躇も無くそんな事されて三雲も硬直する。




 唇は長い事離れない。




「…っ…ん」



 息苦しさと羞恥で目を潤ませる椿からジーノが漸く唇を離す。くたりと再び倒れそうになる椿を支えよしよしと頭を撫でた。




「邪魔が入らないね。祓われたかな」



 くす、と笑いジーノが椿の周りを見渡す。




 そうやって確かめんのか…(汗)。と存在を忘れられていそうな程長い間放って置かれた三雲は深いため息をつき頭を抱えたが、祓われたらしいのにはホッとする。何とかなるもんだ、と王子様の機嫌を損ねず済んで胸を撫で下ろした。




「…ぁ…っ…待っ…お…じっ…」




「ふふ、こうしてバッキーに触れるのも久しぶりだからね」




「だ…けど…っ…」




「ほらバッキー…じっとしてよ」




「…ん……っや…」




「…………………………余所でやって下さい」





 どうやら椿はジーノのペースに乗せられてるし、ジーノは自分などスルーだし…で甘ったるさ全開でイチャつく二人にいつどうツッコんで良いか眉間に皴を寄せた三雲だったが、気を使うのも疲れてきて口を開く。




「あぁ、助かったよ。ミック」




 今度女の子紹介してあげるよ、と笑い椿を連れてジーノは戻って行った。




 仮にも聖職者にどんな御礼だ。と内心思いつつ出来ればもう来ないで欲しい…というのが本音。何度目になるかわからないため息をついて、気疲れして椅子へと座り込んだ。




「三雲、コーヒー」




「…はい」









  間








「!!!???」



 降り懸かる声に何故か普通に返事を返してしまい三雲が声の方を振り向けば、机に足を乗せそれはそれは大きな態度で向かいの椅子に座る持田と目が合う。




「な、何で……っ」




「椿君に憑けなくなったからとりあえずお前んちで世話になるわ」




 ホラ早くコーヒー煎れろ、と悪魔なのに近くにあったからとパラパラと聖書めくり何故か爆笑してる持田に三雲は呆然とする。




 魔界に帰る、という選択肢は無いようだ。




「祓えて…無い…?」




「お前如きが俺を祓えるワケ無ぇだろ、バァカ」



 現状に頭は真っ白になる。




 唖然とするしか無い。
 




 どうなるんだろう…。




 一抹程度では無い不安が過ぎる三雲だった。















おわり
 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ