本5 その他CP

□take hold of warmth
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タンザキ





 丹波が以前行った事があるという店へ行く事になった。いつものメンツである堺、石神、堀田と行った事があるらしい。創作料理が主な居酒屋だとか。種類も豊富で値段もリーズナブル。イキツケという程では無いが何度か行った事のある店だと聞いた。



 「おごってやるよ♪」なんて言われ着いて来てしまった赤崎は今、後悔していた。




「いつになったら着くんスか?」



 練習後だし歩き続けて足も疲れてきた。不機嫌を隠す事無く唇を尖らせる赤崎が少し前を歩く丹波に声をかけた。




「はは…、悪いな」




 おかしいなぁ、と口にしながら丹波が辺りをキョロキョロ見渡す。もう夜だし昼間はまだマシだが風の冷たさが身に堪える。赤崎は益々表情を悪くした。




「赤崎ぃ」




「何スか?」



 ぼんやり丹波が口を開く。




「道に迷った」




「ハァ?」



 危機感の無い声でそんな事を言われ赤崎が素っ頓狂な声を上げる。いい加減にして下さいよ、と悪態をつく。




「着いて来るんじゃ無かったですよ」




「そう言うなよ。つか、どーするかなぁ?」




「腹減ったんでメシ食いたいス」




「この辺何も無いし、駅の方行くか」




「…どうやってこんなトコに来ちゃったんスか」




「何でかなぁ」



 お気楽そうな丹波に赤崎は、はぁ、と苛立ったため息をつく。すたすた歩きはじめると丹波を追い抜いてしまい眉間に皴を寄せた。




「駅行くんじゃ無いんスか?」




「や、あー…赤崎が先導してよ」




「……頼り無いっスね」




「ゴメンって。おごるのはちゃんとおごるから」




「当たり前ですよ」



 クルリと向きを変え赤崎は歩きはじめた。丹波に連れて来られ赤崎もこの辺りは良く知らないが丹波に任せておくよりマシだろうと駅を探す。この近辺の案内板を見つけ間違い無いと足早に進む。




 そう、





 間違い無い。








 はずだった。







「……………」



 暫く歩いてふと赤崎は足を止めた。後ろを歩いていた丹波が首を傾げる。




「どうした?」




「……………」



 追い付いた丹波がひょいと赤崎を覗き込む。




「…………ま」




「ま?」




 小声だったたからイマイチ聞き取れない。もう一回言って、と視線を送ると暫く押し黙った赤崎が渋々口を開く。




「……間違えちゃった」




「へ?」



 …みたいです。ともの凄くバツの悪そうな顔をして赤崎は丹波と逆の方向に顔を背けた。その顔はさっき丹波に色々言っただけに立場が無いというか…目の下を赤く染めてちょっと拗ねたみたいな表情で、子供みたいに見えた。




「…………ぶっ」




「ーーなっ、笑わ無いで下さいよっ!」



 思わず吹き出す丹波に赤崎の顔は益々赤くなる。




「わ、悪ぃ悪ぃ、だ…だって」



 目に涙まで溜めて笑う丹波。むっと不機嫌な顔になる赤崎の頬にペタリと手の平を当てる。




「だって可愛いーんだもん」




「な……」



 丹波を睨んでそれこそ噛み付きそうな赤崎だったが、耳まで真っ赤にした顔では迫力は無い。口をぱくぱくさせて何か言いたそうだったが、言葉は出てこず。また顔を背けようとしたが丹波に頬を触れられてたので目だけ逸らした。




「どーしますか?」




「ここなら場所分かるから大丈夫だよ」




「は!?分かってんのに着いて来てたのかよ!」




「赤崎が何か良い店知ってんのかなーと思って」




「この辺りは知らないっスよ」




「”間違えちゃった”んだもんなー♪」




「……丹さんッ」




 さっきの赤崎の表情を思い出してまた吹き出す。からかい口調の丹波に赤崎が声を荒げる。それでも相変わらず丹波はにんまり口角を上げて楽しそうなので余計に赤崎を苛立たせた。




「悪ぃって」




「ホントにそー思ってんスか」




「思ってるけど赤崎が可愛いーから…」




「あーもう!アンタはもうしゃべんな!」




 ぴしゃりと言われ後輩に大人しく黙らされた丹波だが、しおらしいのも1分ももたない。




「…………赤崎ぃ」




「まだ1分も経ってませんよ」




「いや…腹減ってんだろ?早くメシ食いに行きたいんじゃ無いかなー?」




「……………う」



 ニヤリと笑う丹波に言い返せない。悔しそうな赤崎にやっぱり可愛いんだけど…なんて丹波は思ったが口にするのは止めた。




「さっき堺にメールしたら、”その店は隣の2丁目に移転した”らしいよ」




「何スかソレ。ちゃんと聞いて置いて下さいよ」




「はは、ごめんなー。さてと…ちょっと裏道入っちゃっただけだから直ぐ着くからな」



 眉間に皴を寄せ文句を言う赤崎に、丹波の反省は無く見える。ぽんぽんと頭を軽く叩かれ、子供扱いしないで下さいよ、と赤崎がふて腐れるがその丹波の手はスルリと赤崎の手へと重ねられぎゅと繋がれた。




「…何…してんスか」




「え?手繋いじゃったv」




「じゃったvじゃ無いですよ!離して下さい」




「ココ人通り少ないし、暗いからわかん無ぇって」



 大通りまでだから、と赤崎の返事は聞かずゆっくりめに歩き始める。



 幸せそうな丹波の表情と繋いでる手が、暖かいしまぁいいか…とか、らしく無ぇと赤崎は目線を上に向ける。




 本当に駅前の大通りまで直ぐだった。一本裏道というだけで随分な違いだとあまりに直ぐ着いてしまっただけに赤崎は拍子抜けした。



 と同時に離れる温もりに無意識だが力が篭る。




「あーかさーき君」




「え?…はい?」



 赤崎は今の自分の行動に自覚は無かった。何やら嬉しそうにだらし無い顔をする丹波にハッとなり返事をする。




「このまま行く?」




「……っ……無いっスよ」



 繋いでる手を持ち上げ赤崎の目の前へ。明らかに自分もしっっかり丹波の手を掴んでいた事に赤崎は耳まで赤くした。



 ぱっと慌てて手を離す。「寂しいなー」なんて軽口で言う丹波は置いて照明が明るい駅へと歩き出す。



 限界まで食べてやろう、と決める。




 上着のポケットに入れた手は少しヒヤリとする。





 名残惜しかった…とか







 そんな訳無ぇよッ。














 ………強がり?


おわり

 
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