本5 その他CP

□casuallywise
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タンザキ





 『試せ』と言われてから一週間、一体丹波に何されるのかと若干気が重かった赤崎だが丹波は別段何をするでも無く、いつも通り練習していつも通り生活していた。かたや赤崎も『試す事』など忘れそうなくらい普通な日常だった。かと言って忘れられるような発言では無いが。 



 丹波が何かしらアピール全開、やる気全開(色んな意味で)で来られたらどう太刀打ちしようかと模索していた赤崎は拍子抜け…というか、やっぱり冗談だったのかと曲がりなりにも先輩だし多少なりとも使った気をため息と一緒に吐き出した。




 そんな時、その僅かな隙を狙ってたかのように練習後にいきなり丹波から「今日、赤崎んち行くからヨロシク!」と声をかけられ、赤崎の返事も聞かないままシャワー室へ入って行く丹波を見送らされる。



 勝手だと思いながらも何故か大人しく丹波を待つ自分はどうなのかとロッカー室の外で赤崎は頭を抱える。もしかして『試せ』がどんなものか興味でもあるんだろうか。自分の事にも関わらずまるでわからなかった。




「お、良かった〜、帰って無かったんだな」



 ひょこ、とロッカー室のドアから顔を出す丹波。ぱっと明るくなるその表情に気分は悪く無い。だから一方的な約束も、まぁいいか、なんてらしくもなく気を許してしまったのだ。




「ウチに来るって言ったじゃ無いスか」




「やー、嫌だから帰っちゃったかもー…とか」



 赤崎んち行った事無いから場所知らないし、と丹波が笑う。知ってたら連絡も無しに「ヤッホー♪」なんて軽ーく遊びに来そうだな…と眉間に皴を寄せる赤崎。教えてしまって良いものか先輩に対して失礼だろうが悩む。視線の先に居る丹波はそんな無礼な後輩の考えなど知らないし、気にするタイプでも無いから初めて行く場所に楽しみなのを全面に表して笑っていた。そんな屈託無く笑われたら断れ無い。本当にいつも明るいよなと苦笑し「じゃ、行きますか」とだけ口にして歩き始める。



 赤崎が「どうぞ」と声をかけなくても「お邪魔しま〜す」なんて言いながら車の助手席に丹波が座る。




「わ!新車?」



 新車のニオイがする〜と楽しそうに笑う丹波は年上とは思え無い子供みたいな顔で、赤崎は苦笑した。




「前のが貰い物で古い車だったんで今度の車検代も勿体ないし買い替えたんスよ」




「へー、良いなぁ。良い車じゃん♪」



 丹波が素直に感想を述べると、赤崎の表情が一瞬だが綻ぶ。日本代表に選ばれた時に監督に「自分の事みたいに嬉しいよ」って言われた時の表情と類似していた。照れたような…でも嬉しい顔。




「何スか?」




 ついニヤけてしまうと、赤崎に不審そうに見られて丹波は「別に」と口元を緩めたまま返事を返した。可愛い、とか思ったのは今は黙っておいた。








 車を走らせ20分程、多少渋滞してたから空いてる時ならもっと早く着くだろう、赤崎の家へ着いた。



 赤崎の予想通りにはしゃぐ丹波は遠足に来た子供みたいだった。




「綺っ麗ー!広ーい!」



 うっかりそのまま部屋を走り周りそうな丹波に(ってもそこまで広くはない)呆れて赤崎が肩を竦めた。




「物が無いだけっスよ。つーか落ち着いて下さい」




「あ!お菓子持って来たから!」




「遠足かよ!」



 赤崎がツッコミを入れると声を出して丹波が笑う。本当に何だかいつも笑ってるな、と丹波を見てると、そんなつもりは無いのだが自分が随分気を張って生活している気になる。もっと肩の力抜いた方が良いかな、とか…またらしく無い考えが過ぎる。しかしそんな自分を想像出来ず、はー、とまたため息が漏れた。



 一呼吸してずっと聞こうとしてた事を尋ねる。




「つか『試せ』っといて…丹さん一体何したいんスか?」




「えー?お前から何かしら提示されると思ってたからさー」




「…他力本願スね」




「だから取り敢えず話合おうかと」




「既に行動を起こしたみたいな台詞っスね」




「赤崎ぃ、冷たーい」




「だって、丹さんって何か信用出来ないです」




「酷ーい」




「自業自得でしょ」




「…じゃ、ちょっとマジんなっちゃおーかな」




「ハァ?…………ッ」



 ドン、と少し乱暴に赤崎はその背を壁に押し付けられた。



 驚いて目を丸くさせた赤崎が丹波とその視線を合わせ、その瞬間しまった!と思ったが…もう遅い。



 今まで見た事が無いくらいの真面目な顔と真剣な視線。不覚にもビクッと肩が跳ねた。



 じっと赤崎を見据えたまま丹波は何も言わない。サッカーでなら反射神経も良い赤崎だが今は相当鈍くなっていた。丹波との距離が近い!と感じた時には避けるのも間に合わず、躊躇無く唇が塞がれた。




「……っ……んんっ」



 まさかの展開に驚いて頭の中は真っ白になる。後ろは壁だしいつの間にか腰に手はまわってるし避けられ無いから、何とか丹波を押し退けようと赤崎が丹波の服をぎゅと掴んだが逆効果だったようで唇はなかなか解放され無かった。



 息苦しさもだけど…カクンと赤崎が膝の力を無くして丹波が「おっと」と赤崎が倒れ無いように引き込んだ。




「………っは…」



 背中を壁へ伝いながらズルズルと赤崎がその場に座り込む。呼吸を荒げてじろ、と丹波を睨む。




「う、わ…悪い…」



 睨みつけたせいでは無く、何か別の事で焦った丹波の口調に赤崎が睨んだ目を少し緩めた。それから宥めるように頬に触れる丹波の手にウッカリ絆されかけて赤崎はバツの悪そうな顔をした。




「…謝るくらいならしないで下さいよ」




「いや…だって…泣く程嫌がれるとは思わ無かったから…」




「…誰が泣いて…ー」



 言いかけて視界がぼやけてる事に気づく。赤崎は一気に顔を赤くした。




「な、っ…何だこれ…恥ず…ッ」




 慌てる赤崎は隠すように顔を覆った。




「悪い…ホントに…ー」




「え、…あ、違っ…これは……ッ」





 これは……、





 これは………?





 何だっけ…。(混乱中)





 普段なんてとても年上とは思え無い子供みたいな癖に…。こんなトコでやっぱり年上なんだって変に思い知らされて…。何か悔しい…とか。 






 言えるわけ無い!!




「………狡い…スよ」




「……………」



 拗ねたような表情で赤崎が少し下を向く。いつもと違い幼く見えて謝ったばかりなのに丹波は衝動的に手が伸びた。




「あー、もう!可愛いっ」




「…っ…丹さんッ」




「……怖かった?」



 ぎゅうぅっ、と抱きしめられて困惑する赤崎に伸びてきた丹波の手が前髪を梳いて額のあたりを優しく撫でるから、調子が狂う。




「べ、別に…。ただ普段に巫山戯けたトコしか見て無いんで意外だったって言うか…」




「酷ぇなぁ」



 ごまかすように悪態をつけば、いつもの軽い口調の丹波の声にどこか安堵する。




「さっき違うって言ったけど?」




「へ?………あぁ」



 本当に心配そうな顔をするから思わず口にしてしまったが…、よくよく考えればキスを嫌がったわけじゃ無い…と捉えられる。僅かながらそれを期待する丹波の目に、どうしたものかと赤崎は目を泳がせた。




「『お試し』続行で……?」




「〜〜〜〜…良いスよ、それで」




 赤い顔して平静を装う赤崎に嬉しそうに丹波が笑う。




「もー少し手加減するから」




「な…ッ、…必要無いっスよ」





 そう言って、ハッとなる。方向性間違ってる、と赤崎は渋い顔をする。手加減するなんて言われて逆に焚きつけられた自分の勝ち気な性格に後悔した。




 それが丹波の作戦で無いと良いが、にんまり笑う丹波の表情にまんまと罠にかかったような気になる。




 見た目よりも抜目無いかも知れない…。




 じろ、ともう一度丹波を睨むと「怖ーい」と業とらしく怖がってみせる。効果無ぇな…と手強さを感じた赤崎だった。















おわり
 
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