本 ジノバキ

□桜色
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 ぽかぽか気持ちの良い陽気。


 「いいとこに連れてってあげるよ」と突然ジーノに誘われて、わけがわからないまま椿は連れて来られた。


 連れて来られたのは見事にふくふくとした花を咲かせてやわらかい色を纏った桜の……丘?


 詳しい事はにっと笑うジーノにはぐらかされてしまいわからない。


(まさかプライベートビーチならぬプライベート…何だろう…桜?)


 とか謎の考えに行きついて、とにかくジーノが自分に見せたくて連れて来てくれたのには違い無いので考えるのは止めた。


 春になれば当たり前の様に見る桜だが、毎年だろうと桜の木の花を纏わせた鮮麗な姿には心を奪われる。今とて例外なく目の前ある立派な桜に感動してドキドキした。


「どうだい、バッキー?」


「すっッごく綺麗っす!感動しました!」


 キラキラしてる(様に見える)目とか移されたかの様な桜色の頬、もともとお世辞なんて言わない素直な椿の言葉にジーノの機嫌も良くなる。


「暫く見てても良いですか?」と聞いて来る椿は珍しく甘える様な口調だったので、こんな程度の強請りならいくらでも…と「構わないよ」と頭を撫でた。







 更に時間が経ち穏やかな日和のせいもあってか自分の隣でスヤスヤ眠る愛犬に口元を緩めるジーノ。


 年齢の割に幼く見えるその寝顔はあどけなく可愛いらしい。


 人差し指でその鼻をふにふにと突いてみるが起きない。


 その手は椿の頭へと伸びて、よしよしと優しく撫でると寝てるのに椿が嬉しそうな顔をするので気持ちがほんわりしてくる。


 本当に可愛いなぁと口元だけでなく気持ちまで緩んでいると自分で自覚してはいるが、その手はまだ大事そうに頭を撫でる。というか触れていたい。


 こんな穏やかな陽気のせいだと誰に言うでもなく言い訳をして、安心した顔で眠る椿を腕の中に閉じ込めたくなったが、木陰で人もいないが外なので諦めた。


 風に吹かれひらひらと舞い降ちてくる桜の花びらが、気持ちを煽っている気にさせられ、このまま触れているといい加減手を出してしまいそうだと手を止めて景色へと目を向ける。


 その時寝ていた椿が目を開けてむくりと起き上がる。


「おはよう、バッキー」


 椿が起きた事に内心ほっとしながら(手を出しそうなので)声をかける。


 しかし返事は返って来ない。礼儀正しい椿にしては珍しいとその顔を見る。


 椿は目こそ開いてるが、まだ夢の中にいる様でとろんとした目でジーノをじっと見ている。というか見ているかどうかも怪しいくらい、ぽわーとしていて可愛い。


 
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