IS

□第一話
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「全員揃ってますねー。それじゃあSHRはじめますよー」

教師らしからぬほんわかとした声が教室に響く。先生らしくないとは言え、彼女が教室に入ってきた瞬間、騒いでいた女子生徒達がしゃべるのをやめた。黒板の前に立ちSHRを一生懸命仕切ろうとしている山田先生は一番後ろの私の席から見ても小さく見えるが、前の席に座ってもその印象は変わらないだろう。
そのほんわかとした表情は今まで怒ったりしたことがないのではないか、と疑問に感じる程だ。

「どうかしましたか?」
「い、いえ! すこしぼーっとしてただけです」

どうやら凝視していたらしく、先生が軽く首をかしげる。慌てて首を振ると彼女は「そうですか」とSHRに戻った。

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
「……」

クラスからの反応がないことに軽くショックを受けたのか、彼女は肩を落とした。
気のせいか多少挙動不審に見える。生徒の顔を一人一人見たり、学生簿を確認したりするさまはまるで誰かを探しているようだ。
再度首を傾げた彼女は何か決心したのか、一人で頷くと

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。」

あいうえお順で始まった自己紹介はさすがに早く俺に回ってきた。俺は注目を浴びないように無難になおかつ、少なすぎないように自己紹介を終えた。

途中、織斑一夏が名前だけ言って自己紹介を終わらせようとしたことで、その姉でありIS学園の教員でもある織斑千冬に止められるというハプニングがあったので俺の印象は薄いだろう。
そして待つこと十数分。

「やっと……やっと」

やっと長いガイダンスが終わり、高校の入学式は終了したといっても間違いないだろう。

クラスメイト達は新しくできた仲間たちともうグループの形成にかかっている。その輪に入れないのが若干2名ほど。

一人は見た目のみクラス唯一の男子、織斑一夏。第一世代のIS操縦者で最強の人物を姉に持ち、
自身も女性にしか扱えないはずのISを操縦できる唯一の男子。発覚して一日とまたずその情報は世界中を駆け巡った。

そしてもう一人。クラスに馴染めていない人物がいる。なにを隠そうこの俺だ。席を立った途端、教壇近くのグループにつかまってしまい、表面上は馴染んでいる。
しかしその内心では彼女たちをだましていることに引け目を感じている。

だから早くこの教室から抜け出して、一人になりたくてウズウズしている。それなのに、織斑が逃げないようにドアをさりげなく封鎖している一緒に話している女子のせいで俺まで逃げ場を失っている。
教室の前側のドアを目前に退路を断たれた俺は、絶望に崩れ落ちそうになるのを堪えた。
そんな俺の後方から黒板の前でこそこそと話し合う二人の教師の話し声が聴こえる。

「織斑先生おかしいんです」
「なにがです? 山田先生」

織斑先生は教員らしい飾り気のないスーツに身をつつんでいるため、釣り上がった目の端と相まって一層厳しい雰囲気を漂わせている。
織斑弟から逃げ場を奪い、質問攻めにしようとした女子がいまだその行動を抑えているのは彼女の存在があるからだ。

「それが、織斑くんの他にもう一人男子生徒がいるはずなんですが、どこにもいないんですよ」
「ほぅ」

背筋に冷や汗が垂れる。そう俺は男の制服ではなく、女子用の制服を着ている。

(あの変態副隊長め。帰ったらギタギタにしてやる)

俺は心の中でクラリッサ・ハルフォーフこと変態副隊長の顔を思い出し、拳を強く握った。
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