25000HIT

□見て欲しい
1ページ/2ページ

俺が物心がつき始めた頃。

「えんどう」という人が俺の家の隣に住み始めた。

そんなに興味はなかったが、子供の好奇心でえんどうに会いに行った。


「えん…どう…?」

「おっ、よっ!」


と、えんどうは右手を挙げて挨拶をした。


「お前は…一朗太だったよな?隣の家の。」

「う、うん…」


ふと、えんどうの横に転がっている球体に目がいった。
白黒のボールでパンダのように思えた。


「これ、なに?」

「これか?これはな、サッカーボールって言うんだ!」

「サッカー?」

「あぁ!皆でこのボールをゴールっていうとこにどれだけ多く入れるかっていうゲームだ!」


と、熱く語ってくれた。
そんなゲームに、おれは興味深々だ。


「やってみたい!」

「おっ、じゃあやるか!」


えんどうは早速、物置から段ボールを引っ張ってきてゴールというのを作った。


「よし!じゃあ蹴ってこい!手は使うなよー!」

「ねぇ、どうしてえんどうはゴールの前にいるの?」

「俺はゴールキーパーっていってゴールにボールが入るのを防ぐんだ!」

「そんなのずるい!ゴールに入んないじゃん。」

「分かってないなぁ一朗太は。」


えんどうは少し自慢げな顔をして、


「それがサッカーの楽しさなのさ。守り、攻めて、走る。それがあってこそ、サッカーなんだ!」

「へぇ…!」

「ほら、打ってこいよ!」


とえんどうはゴールの前に立つ。
俺はボールを足で止める。
だが、体格が違うのか足を乗せようとすると少しふらつく。
だが、そんなこと気にせず加速をつけて思いっきり蹴った。


「えいっ!」


ボールはコロコロ…と転がっていく。
それはえんどうを通り越してガタンとゴールの中へ入っていった。


「ナイスシュート!」

「やったー!」


とはしゃぐ俺の頭をくしゃりと撫でる。


「お前、将来良い選手になれるな!」

「ほんと?俺、せんしゅになれる?!」

「おう!だけど、なるには色んな特訓をして力をつけるんだ!そうすれば、お前はもっと強くなるぞ!」

「うん!頑張る!」

「よし、もっと強くなって日本代表になれ!俺が待ってるからな!」


ニカっと笑って言ってくれた。
その言葉は、今でも忘れられない。
だから今、俺はこの地に立てる。
広いグラウンドの中に。
あの人もベンチから見ていてくれる。
支えになってもらってるんだ。


「見ていてくれ…俺のプレーを。」


そして、空に大きくホイッスルが鳴った。




――見て欲しい

それは、言葉をくれたあの人のため。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ