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□狂者の宴
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※男娼パラレル
兄のユアンは仕事の出来る男で男女関係なくモテたが、恋人は生涯一人も作らなかったと言う。
それを知ったのは俺が男娼として働く一週間前……つまり、ユアンが死んだ翌日のことだ。
『あいつは本当に良い男だったよ。ああ、そうさ。君とは似ても似つかないくらいに』
喪服に身を包んだジョー・サリバンはこの世の終わりみたいな顔で言った。
ジョーさんはかつてのユアンの上司で、現在は夜の世界に身を置いているという変わった男だ。
少し前の俺ならその意味が解らなかっただろう。
俺は警察学校を卒業して以来荒んだ生活を送ってきたが、色気のある話には全くと言っていいほど無縁だったからだ。
というか、ユアンが死ななかったら今でもそうだと思うけど。
慰霊の前でジョーさんはユアンについての話をした。
昼は刑事、夜は男娼として寝る間も惜しんで働いていたこと。
その金を全部俺名義の通帳に貯めていたこと。
……俺がちゃんとした職に就くまで、恋人は作らないと決めていたこと。
『でも、本当の理由は他にあったのさ。あいつは言わなかったけどね』
『本当の理由…?』
『君だよ。ユアンは君のことが好きだったんだ。もちろん家族愛を超えた意味で、だよ』
俺は初めジョーさんの言葉を信じることが出来なかった。
ユアンが俺を……。
100%と無いと言い切れるわけではなかったが、そうだと言える自信もない。
だってそうじゃねぇか。
二人で警察学校に入るずっと前から、ユアンはいつも俺の一歩先を歩いていた。
出来の良い兄と落ちこぼれの弟。
そのレッテルが当たり前だったのに、今更何に期待すればいいのか。
だが、その答えはユアンの死因が語っていた。
ジョーさんは続けて言う。
『でなければユアンは死ななかったはずだよ。本当は事故じゃないんだ。君は知らなかっただろうけど、ずっと暴漢に狙われていたんだよ。それを、あいつが身代わりになって……』
***
「何を考えていたんです、アラゴさん?」
目を開けると、セス・ストリンガーと彼の背負う見慣れた天井が飛び込んできた。
どうやら俺は仕事の最中に寝ていたらしい。
こんなことは初めてだが、動揺を悟られないように欠伸をした。
頭がガンガンする。
「俺は……どれくらい寝てたんだ?」
「一時間と少しですかね」
「そうか」
枕元の時計に目をやると、時刻は午後の十一時八分を指していた。
ジョーさんから仕事の電話を受けてここに来たのが確か四時間前だから、もうそろそろ帰ってもいい時間だ。
しかし……。
「ん?僕の顔に何か付いてますか?」
不思議そうに俺を見るセスに首を横に振る。
まさか、この男に買われることになるとは誰が予想できただろう。
セスはつい一カ月前まで同じ店で働いていた男娼だ。
しかもナンバーワンという札付きの。
尤もその座はセスが辞める前には俺のモノになってたけど、正直言ってそんなことはどうだっていい。
俺はただ、この身体を売って売って、売りまくって、心まで壊れてしまうのを待っているだけなのだから。
何故ならユアンの居ないこの世界は、あまりにも意味が無い。
「いや、本当に仕事辞めたんだなと思ってよ」
「やだなあ。あなたが言ったんじゃないですか」
ああ。そんな事もあったかもしれない。
「それに、男娼のままじゃあなたを買えませんからね」