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□不戦敗
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※日吉男娼パラレル
今月、俺は何人の客と寝ただろうか。
馴染みのラブホテルの一室で、
ゴミ屋敷みたいな汚い部屋で、
或いは、どこぞの役人の豪邸で。
こんな仕事今すぐ辞めたいと思っていても俺を買おうとする客は後を絶たず、通帳の預金残高と虚無感だけが募っていく。
それでも昔は、愚かにもこの仕事でナンバーワンになることを夢見ていた。
頂点に昇るのは難しく、金持ちのとりわけ悪趣味な男色ジジイを相手にするのは辛かったが、俺は耐えた。
耐えて、ナンバーワンになった。
それなのに…何故だ?
息が苦しくて、胸を締め付けられるようなこの感覚。
何をしても満たされず、最近では食事よりも煙草の量が増えた気がする。
煙草と性交の量だけが。
「……不味い」
さっきまでアンアン啼いていたホテルから最寄りのコンビニで煙草を買い、店先で吸った。
紫煙はまっすぐに昇りすぐに消える。
俺も、この煙のようにパッと消えてしまえたらどんなに楽だろう。
ただ現実的な問題として金を稼が生きてゆけないし、生きている限り腹だって減る。
つまり、俺は、初めからこうするしかなかったんだ。
体を売る術しか知らない俺は。
ふと、コンビニの向かいに建つ一軒のホストクラブが目に止まった。
最近オープンしたばかりの店だ。
シックで洗練された外装は下品に輝くネオン街に馴染まず、どこか異様な雰囲気が漂っている。
――ホスト氷帝クラブ。
看板にはそう書かれていた。
「なんだ、うちの店になんか用か?」
暫く看板を眺めていたら、高級ブランドのスーツを身に纏った見るからに金持ちそうな男に声を掛けられた。
俺にはわかる。
コイツは、俺のような男娼がどんなに頑張ってもなれない正真正銘の成功者だ。
「別に…ただ見ていただけですよ」
「入るのか?」
「………」
もう一度、店の看板に目を向ける。
俺の財布は汚れた金でパンパンに膨れているが、あの店でいちばん人気のホストを惹き付けるのにどれほどの金が掛かるのだろう?
……目の前の男には、いくらの値が付いているのだろう?
「アーン?何人のことジロジロ見てやがる」
「気のせいですよ」
「フッ…まあいい。で、入んのか、入んねぇのか?」
「……少し、一杯だけなら頂きましょう」
酒を飲む動作をし、男を見据える。
結局俺は、この虚無感よりもプライドを取るちっぽけな男のようだ。
……この成功者を、俺のテクで落としたいと思ってしまった。
***
「俺はここのオーナーの跡部だ。店長は別にいて俺はキャストでもある」
内装は思ったよりも派手な造りをしていた。
客は十人程しかおらずホストはその倍程度だが、男に負けず劣らずの美男が揃っている。
「……跡部、さん」
だが、素人目にもこの男がナンバーワンであることはすぐにわかった。
……いや、やはりと言うべきか。
跡部さんは入り口付近に飾ってある写真を指差しながら続けた。
「今空いてるのはナンバー3の滝、4の鳳……あとはまあ、その辺のヘルプを呼んでも構わねぇ」
「なるほど、わかりました。俺はあなたを指名します」
「……アーン?」