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□惚れた弱みに付け込まれ
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「好きなんだ、仁王。だから付き合ってくれ」
「おいおいブンちゃん、そりゃ何の冗談ぜよ?」

驚きのあまり目を見開く仁王に、丸井は真顔のまま続けた。

「言っとくけどマジだぜ」

きっと何かの間違いだろう。
仁王はそう思いたかったが、その目はあまりにも真剣で、きっと下手なことを言えば丸井を傷付けてしまうに違いない。
放課後の校舎裏に呼び出された時は面白い遊びでもするのかと思ったけれど、よくよく考えればここは告白の名所である。
(でも、なんで急に……?)
丸井のことは好きだ。恋愛をするのに性別を気にしなくて良いとも思う。
だがそれがイコールになるかと言えば決してそうではなく、丸井を恋愛対象として見ることはどうして出来なかった。

「すまんがそれは無理じゃ」

仁王は丸井の目を真っ直ぐに捉えて言った。
そういうふうに見ることは出来ないけれど、友達としてはこれからも良い関係でいたかったからだ。

「そっか…そうだよな。なんか、悪ぃ……」
「いや、ブンちゃんが謝ることなんて何もないきに。ありがとう」
「仁王……」

泣きそうな丸井の頭に仁王はポンッと優しく手を置いた。

丸井が他の男と付き合い始めたのだと知ったのは、それから3日も経たない昼休みのことだった。



***



「俺の赤也に手出すなんて、丸井も良い度胸してるんじゃないの」

その日の3−B組の教室では、仁王を取り囲むように一つの小さな輪が出来ていた。
その中で不機嫌そうな声を上げたのはテニス部部長の幸村だ。
幸村はおそらく今食堂で昼食を取っているであろう丸井の席を一瞥しながら、弁当箱にあるミートボールをフォークでグサッという嫌な効果音付きで突き刺した。

「仁王もそう思うだろう?」
「いや…ていうかみんなして集まると暑苦しいナリ」
幸村の問い掛けに仁王がそう答えると、
「まあそうおっしゃらずに。たまには良いじゃないですか、こうして部の皆さんで食事をとるのも」
「うむ。俺も昼休みに幸村に会えて嬉しいぞ」
「……真田のは超個人的感想じゃ」
同じ三年生でチームメートの、とりわけ頭の固い柳生と真田に挟まれて脱力した。

普段の仁王は部活動の時以外は人とつるむことはない。
だから余計に鬱陶しかったのだが、幸村の言葉を無視出来ないのもまた事実だ。
こっちが駄目だからあっちに行く。
そういった軽率な行動が丸井に似合うとは思えない。

「わからんのう」

仁王は溜め息と共に一言吐き出した。

「なんだ仁王、溜め息など吐きおって」
「いやなに、この前ブンちゃんに告白されての。勿論断ったんじゃが、こうなると本気じゃなかったんかと…」
「なんだって?それは本当か」

仁王がそうだったように、幸村が目を見開いて驚いた。
そして四人の間に静寂が訪れる。
テニス部レギュラーとして皆、丸井ブン太というひとりの人間のことは一年生の頃からよく知っていた。
知っているからこそ仁王と同じ疑問が生まれ、それと同時に仁王が気付くことがなかったある一つの問題が浮かび上がる。

「解せませんね」

沈黙を破ったのは柳生だった。

「そうか?丸井には赤也が似合いだと思うのだが」
「あ、真田君は黙ってて下さい」

柳生は真田をあしらうと、仁王と幸村に交互に視線を送った。
反射の所為かレンズの奥が完全に見えなくなり、柳生をよりミステリアスに演出する。

「どうして仁王君は、丸井君の告白を断ってしまったんですか?」




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