short

□Pierrot
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その日、イタリアの片田舎にあるホテルではボヴィーノファミリーが盛大にボスの誕生パーティーを開いていた。
ボヴィーノファミリーと言えば全世界…いやイタリアの中でさえもさして名の通った組織ではない。
にもかかわらず、その年多くの関係者が集まったのにはある理由があった。
無論ボスの人徳もあるのだが、それだけでは説明出来ないほどの大物が参加するという噂が流れていたからだ。
舞台上でパーティーを盛り上げていたランボも気が気でなく、何度も会場を見渡している。
それに気付いたボスが彼に声を掛けたのは、乾杯の音戸をとってから僅か一時間ばかりのことだった。
「気になるなら探しに行けばいい」
よく通った低音で一言。
自分の考えを見透かされたことにランボは驚き、しかしこれが自分達のボスだと納得する。
「……ですがボス」
「ですがもクソもない。それに私からも挨拶を……いや、こちらから行くと伝えておいてくれ」
「それはなりません!今日はボスの…、」
「いいから早く行け」
ランボはまだ何か言いたかったが、ボスがそれを押し切り、一マフィアを統括するに相応しくない柔らかい笑みを湛えた。
「自分の欲望に素直に生きるのが…ランボ、昔からおまえの取り柄じゃなかったのか?」




探し人はロビーのソファーに座り、対面に座る不機嫌そうな男と何か話をしていた。
ランボはその二つの人影を見つけると一瞬怯み、心の中で自分に渇を入れてから声を掛ける。
「こんな所まで来なくて良かったのに……ボンゴレ、あなたは本当に奇特なお人だ。それに獄寺氏も」
「俺は来たくて来たんじゃねぇよ」
「獄寺君!」
「いえ、わかっています」
すかさず声を荒げたのはボンゴレ嵐の守護者、獄寺隼人だ。
獄寺が無遠慮に煙草を吹かし、それを十代目の沢田綱吉が宥める。
昔と一つも変わらないやり取りに安心しつつ、それもどうかと思い、ランボは苦笑した。
「すまないランボ…本当はみんなで来たかったんだけど、ボンゴレの志気に関わるからリボーンが駄目だと…」
初めて出会った10年前のように、何よりも友を大切にするボンゴレ。
「はは、あなたが来た時点でそれは無意味ですよ」
「っ、このアホ牛!十代目がせっかく来てやったのにその言いぐさはなんだ!」
「だって本当のことでしょう」
――また、自分を屈辱的な名で呼ぶ美丈夫な彼も。
(……何も変わっていない)
(変わりたいかどうかも、今となってはよくわからない…)

ランボは溜め息を吐き、もう何度目になるかわからないその想いを押し殺す。
ボンゴレ十代目雷の守護者に選ばれ、またボヴィーノのボスが信頼するヒットマンの少年は確かにそれ相応の能力を秘めているが、裏を返せばそれだけの話だ。
10年前に飛ばされた時は大人ランボなんて呼ばれるけれど、自分が大人だと思ったことはない。
何故ならランボの考える「大人」は素直に、そして自由に生きている人間のことを示している。
……ボスの言っていることはただの過信に過ぎないし、これからもそうだろう。

「……しかしボンゴレ、あなたはそれで良かったのですか」
少しの逡巡の後、場を取り繕うように沢田に問い掛けた。
答えをわかっていても訊かずにはいられなかった。
「当たり前だろ。ランボは俺達の大切な仲間で、ボヴィーノファミリーは君にとって家族のような存在なんだから…なっ?」
「けっ、そういうこった」
獄寺も最後には渋々頷き沢田に賛同する。
「そうですね……ええ、ボンゴレ。うちのボスは自分から挨拶に行くと言っていましたが、あなたはそれも許さないのでしょう?」
「そりゃそうだ!俺達はただ祝いに来ただけなんだ」
「ありがとうございます。お気持ちだけ受け取らせて下さい」
「……ランボ」
しかしその好意はあまりにも恐れ多く、或いは沢田と彼が二人で居ることを辛く思うランボは断るしかなかった。
勝手なことをしているとは、思う。
けどそれくらいのわがままなら、自分にだって許されてもいいはずだ。
……ただこの胸は、相変わらず悲鳴を上げているけれど。
残念ながら諦めることには慣れてしまっている。

「ああ…偉大なるボンゴレ。あなたとあなたの最も親しい友が来てくれだけで、僕は充分なんです」
ランボは薄く笑い、騒ぎになる前にと沢田と獄寺に仲間の元へ帰ることを促した。
結局ボスも、超直感を持つボンゴレにもこの惨めさはわからない。
そうして願わくば最後まで…誰にも気付かれることなく終われたら幸せなのだ。





Pierrot


(狂い、踊ることが僕の使命だと言うのなら、この身が朽ち果てるまで僕自信に嘘を吐き続けましょう)






110225


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