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□バッド・エンド
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「気分はどうです、ボンゴレ」

――20XX年、ジャッポーネ。
とある街の地下アジトにて、男はその部屋の上座に鎮座する人物に声を掛けた。
「いや‥まだ少しフラフラするよ。分解されるのは楽じゃないね」
ボンゴレと呼ばれた人物は振り返り、苦笑いを漏らす。
「ふふ、何を仰います。楽じゃなかったのは過去のあなた達でしょう」
「わかってるよ。でもそれはランボ、君もだろう?」
「滅相もない。僕はただの乳くさいガキンチョでした」
男――ランボはボンゴレの近くに腰掛けると深く溜め息を吐いた。
と同時に“過去のあなた達”‥‥10年前の若きボンゴレとそのファミリーへと想いを馳せる。
記憶の中の彼らはいつだって自分に優しくしてくれた。
同じファミリーでもないのに、しかしだからと言って守護者だからという理由は付けず、未熟過ぎた自分を無条件に‥‥。
「ですからボンゴレ、僕は僕を守ってくれたあなたに感謝してもしきれないのです」
「そんな‥大袈裟だよ」
「大袈裟ではありません」
ランボは微笑み、この時代の多くの女性がそうだったようにボンゴレの頬を薄く染めた。
(――けれど、今となってはどうでも良いことだ)
だがかつて同じ守護者に散々アホ牛と罵られ、しかし今となっては立派なマフィアへと成長した男は知っている。
闘いに敗れ荒んでしまった今より10年後の世界を。
また、10年前から「彼」がボンゴレを想っていることも。
(結局オレは世界云々の話より、あの人のことが大切なのさ)

「‥‥ランボ、おまえ‥」
「聞いてはいけませんよ。超直感は今も昔も恐ろしい」
ボンゴレの視線に気付いたランボは再び苦笑し、徐に席を立った。
いつまでもキレイ事を並べられるほど、15歳のランボは大人ではない。
だからボンゴレ‥‥沢田も彼を止めようとはせず、自分からすれば少しまだ頼りなさの残る背中を見送った。




現在のランボは実に奇妙な立場にいた。
表向きはボンゴレ10代目の守護者の一人であるが、だからと言って幼少より世話になっているボヴィーノファミリーと手を切ったわけではない。
ボスに忠誠を尽くすのは絶対。
しかしそのボスが巨大マフィア、ボンゴレの守護者である自分を誇りに思っていることもまた事実である。
ならば守護者としての役割を果たすのが真っ当‥‥かと思いきや、それではランボの考える忠誠心に反してしまう。
「‥‥いっそ守護者を辞退してしまおうか」
と、考えたことも一度や二度とではない。
「あ?こんなとこで何してんだよアホ牛」
そんな事を考えながらアジトの廊下をうろうろしていると、聞き慣れた声がランボを呼び止めた。

「おや、獄寺氏ではありませんか」
そこに居たのはボンゴレデーチモの右腕と恐れられる守護者、獄寺隼人だった。
「‥‥ちょうど良かった。あなたに話があるんですよ」
「けっ、俺はねぇよ」
「知っています」
獄寺がランボをおもいきり睨む。
が、それを受け流し、ランボは獄寺の両肩を掴んだ。
「! 何しやがる!」
当然抵抗する獄寺。
――ランボは決めていた。
あの長い闘いが終わり、再びこの時代に平和が訪れたなら、いい加減自分の気持ちに素直になろうと。
無論、結果なんてものは10年前‥‥正確には初めてあの時代に飛ばされた時からわかっていた。
それでも諦めきれず、自分は彼に縋る。
見苦しいとは思いつつも、消化しきれない思いが確かにそこにはあるのだ。
「少しで良いのです。‥お願いですから聞いて下さい」
そうしてランボはただ一言、「好きでした」と伝えた。




「遅かったね」
数あるアジトの出入り口の一つで、沢田はランボを待ち伏せていた。
「‥‥ボンゴレ?何故ここに‥」
「見送りに来たんだ。‥‥帰るんだろ?ボヴィーノに」
刹那、ランボの心臓が僅かに跳ねる。
図星だった。
もう日本に‥イタリアのボンゴレ本部にも関わるつもりはない。
何故なら結果がどうであれ最初からこうするつもりだったから。
それにここはあまりにも‥優し過ぎる。
「‥‥ごめん」
「やめて下さいボンゴレ。謝られると余計に惨めだ。それに‥あなたの所為ではありません」
「でも‥ランボだって本当は、まだ‥‥」
「ボンゴレ」
ランボは静かに、だけどきっぱりと沢田を制した。
ボンゴレデーチモ、沢田綱吉。
その目もまたランボを捉え、次の言葉を待つ。
沢田もこうなる事はわかっていた。
わかっていたからこそランボを愛しい彼の元へ見送った。
‥‥この、えもいわれぬ罪悪感。
けれど殊恋愛において、それは“仕方のない”ことだと割り切れてしまうから恐ろしい。

「言ったでしょう?僕はあなたに感謝していると。それは未来永劫、もちろん過去も変わりありません。
‥‥ただ僕は少し、生まれる時代が悪かっただけなんですよ」
――そう。もう少し早く生まれていたら、オレは――

頭の中で次の言葉を並べ、やはり違うと思いランボは首を軽く振った。
ボヴィーノに帰ったらやるべき事、やらなければならない事がたくさん残っている。
だがそれも今は後回しで良いだろう。
「名残惜しいですがお別れです、ボンゴレ。‥‥そして僕の初恋も」
ボンゴレ特有の超直感を持つデーチモが全てを享受したかのように頷いた時、ランボは初めて感傷に浸った。





バッド・エンド


(悔しいけれどあなたの胸で、今のオレは泣くことしか出来ない)






110221
ランボの一人称があやふやなので両方使ってみた。


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