過去log

□或る朝の変態
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それは、いつにも増して清々しい朝の出来事だった。
遮光カーテンを全開にして裕太は目を細める。絶好のテニス日和というのはきっとこういう日のことを言うんだろう。生憎部活はないけれど、たまには兄貴を誘ってみるのも悪くないかもしれない。

裕太は自分の口元が緩んでいることに苦笑し、だけど内心では良い傾向だと思っている自分もいた。形はどうであれ、結局自分は兄貴に固執しているのだ。
そうして早速ジャージに着替えようと部屋の方を振り返り――絶句した。


「おはようございます裕太君、今日は絶好のテニス日和ですね」

そこに居たのは、秀麗な微笑みを貼り付けた敏腕マネージャー、観月はじめだった。
観月は、半ば強引にではあったが一応は裕太の“恋人”である。だから自分の部屋に居ても何ら不思議ではないのだが、問題なのは彼が寝間着姿であることだ。
昨夜の記憶を辿ってみても一緒に寝た記憶などないし、そもそも体の関係までは至っていない。にもかかわらずさっきまで自分が寝ていたベッドに寝そべっているのだから、そりゃ絶句するしかないだろう。

「‥‥って、そこで何してるんですか観月さん!しかもパジャマだし!」
「おや?僕は昨夜からずっとここに居ましたけどね」
「えっ‥」
「んふっ、裕太君は随分可愛い声を出すのですね。おかげで僕は何回も裕太君の中で‥」
「う、嘘だァァァ!!」

裕太はオーバーリアクション気味に頭を抱え、いや決してオーバーな表現ではないのだが、膝から崩れ落ち頭を抱えた。
要は、寝ている間にヤっちゃったよ(しかも初めてを)発言である。立派な犯罪だ。


「‥‥なんて、嘘に決まってるじゃないですか。そこまで卑劣な男じゃないですよ」
「で、ですよね‥!」
「まあ添い寝してたのは本当ですが」

んふふふ、と観月が独特な笑い方をすれば再び固まる裕太。

――言うまでもないかもしれないが、これは決して恋人としての可愛い悪戯ではなく、観月の屈折した愛情表現であった。
事を成していないのは本当だが裕太のいろんなところを存分に撫で回したし、うなだれている彼を見て喜んでいる時点でちょっと末期だ。

観月は尚頭を抱えている裕太に覆い被さると、そのまま床に組み敷いてパジャマの中に手を入れた。
‥‥ああ、すべすべとした肌が気持ち良い。
いっそ観月は変態とも言えた。

「みっ観月さん‥!」

朝ということもあって裕太は抵抗したが、彼の嫌がる顔は観月の欲情を助長されるだけだ。
うるさいと言わんばかりに唇を塞ぎ、ついでに舌を入れてしまえばこっちのものだろう。

「‥っは、裕太、君‥ダメですよそんな顔しちゃあ」
「だって、観月さんが‥」
「僕が?」

誘ったのは、君じゃないですか。

理不尽な理由を並べて観月は笑う。
でも、たまには彼にだって正当な理由があった。
それはただの憶測でしかないけれど、それにさえ不安になる自分はやっぱり君が好きなんだと確信できる。

「‥‥でも裕太、僕を差し置いてお兄さんとテニスしたいと思ったでしょう?」

観月は少しだけ泣きたい衝動に駆られ、だけどプライドが許さないのでただ笑った。

「そんな、俺は‥」
「君は僕のそばに居ればそれでいいんです。それとも裕太は、僕を独りにさせたいんですか?」
「っ、‥そんなわけないじゃないですか!兄貴もそりゃ大事だけど、俺は観月さんがいちばんです!」
「なら大人しく抱かれなさい」


――刹那、裕太の唇が再び観月によって塞がれた。
甘く、深く‥‥だが途中で裕太は違和感を感じ、思わず観月の胸板を押した。――明らかにナニを握られているのである。

「な、何するんですか‥っ!」
「今日やらないとは言ってません」

さっきとは打って変わって飄々と言い切る観月。

そこで裕太は初めて、彼が最初からそれ目的で居座っていたことに気付くのだった。





或る朝の変態


(僕は本来ムードを大切にするんですけどね‥‥いっそ興奮しやすい朝に初めてを奪うことで、痛みを和らげてあげようという僕なりの配慮です)

(そんな優しさ要りません‥!!)







‐Fin‐
101128


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