過去log

□加虐主義者の微笑み
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「良かった‥日吉、生きてて‥っ」

左腕を失った向日先輩が、泣きながら俺に縋り付いてきた。
彼の頬が、手が、全身が鮮血に染まっている。自分の血にしてはあまりにも多過ぎた。

「フン‥俺がこんな所で殺られるわけないでしょう」
「そ、そうだよな!てっきりおまえも‥」
「そんなことより左腕、誰にやられたんですか?」

背中に回された腕を剥がすと、向日先輩は気まずそうにそっぽを向いた。‥ああ、なんてわかり易い人なんだ。
俺はそっと傷口に触れる。性的興奮を感じた時とは別の、苦しみに耐える呻き声が先輩の口から漏れた。

「‥‥ねぇ、向日先輩」

きっと向日先輩は、俺が今からやろうとしている事をわかっているのだろう。今度は慌てたように、俺の瞳を捉える。

「ゆっ侑士に‥、だけど、俺は‥」
「殺したんですか?」
「‥‥殺すつもりなんてなかった!あれは事故だ!」
「でも、死んだんでしょう?あーあ、許せないな‥‥忍足侑士」

――俺の向日先輩に傷を付けるなんて。
許せるわけがないんだ、絶対に。

俺はゆっくりと口角を上げ、ぐちゃぐちゃになった肉に指を突っ込んだ。不快な音は向日先輩の悲鳴に紛れて、それをひっくるめて愛しいと囁く俺は狂ってるのか?
‥‥なんて、そんな自問自答がしたかったんじゃない。
本当にただ、愛おしいのだ。

「やめ‥っ、日吉‥!」
「痛いですか向日先輩?でも傷物になったあなたを見る俺の心の方が、何倍も痛いんですよ」

痛い、痛い。あなたを想ってしまったその瞬間から、心が痛くてたまらない。
どうして‥どうしてあの男に隙を見せてしまったんですか?――あなたの命は、俺のモノなのに。


「‥‥さぁ、向日先輩。ゲームはこれからですよ」

せめて苦痛に顔を歪めて、俺を楽しませてから逝けばいい。





加虐主義者の微笑み


(全てはあなたを、落とす為の常套手段です)






‐Fin‐
101116


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