過去log
□最期の人。
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男は好きな女の最初の男になりたいと言う。
女は好きな男の最後の女になりたいと言う。
俺は‥どうなんだろう。
‥‥いや、わかっているのだ。それがこの状況で考えるべきでないことを。
けれど目の前に彼が横たわっていることもまた事実なので、俺はその端正な横顔に手を添えた。
「綺麗だよ、跡部」
それは、あまりにもわかりきったこと。
彼は綺麗だ。そして美しい。
「そういえば、全国で青学の1年と戦った時もそうだったよね」
そう、あの時も彼は。
「俺、ちゃんと起きて見てたんだよ」
気を失っても尚立ち続けて。
「‥‥丸井君の試合より、どきどきした」
王の座に君臨した。
‥‥でも、今日で最後なんだね。
俺はそっと、冷たくなった彼に唇を落とした。
同時に伝わるは対照的に生ぬるい血の味で、それはついさっきまで彼が生きていたことを意味している。
その理由は言わずもがな彼の血にまみれた俺の手だ。
――他の誰かに殺されるくらいなら、俺自身の手で逝かせてあげたいでしょう?
「さよなら跡部‥‥愛してるよ」
俺は大好きなあなたの、最期の人でありたかったから。
最期の人。
(待っててね、すぐに、俺も――)
‐Fin‐
101110