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□それは夢か現か
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――ガタンゴトン。
何度も同じ風景が、俺の目の前を通り過ぎてゆく。
見上げるような高いビル、人混み、誰かの笑い声。
眠たいとは思わなかった。
眠たいと思わない理由もわからなかった。


――ガタンゴトン。
永遠、なんてものは信じない方がいい。
全てのものに終わりがあるように、この電車だっていつかは止まる。
自分だけは例外だと思うなよ。
俺のように、簡単に裏切られてしまわぬように。


――ガタンゴトン。
それにしても今日はよく晴れていた。
夜になってもそれは変わらず、月明かりが俺を照らす。
俺はこの明るさを知っていた。
目が眩むような太陽の明るさではなく、仄かに輝く月の明るさを。


――ガタンゴトン。
目的地はすぐそこに迫っている。
それとも通過点と言うべきか。
俺が向かうべき場所は既に失われていた。
裏切られたんじゃない、気付くのが遅すぎただけだ。




「どうして、好きになっちまったんだろうな」
あの人は嬉しそうに顔を歪める。

「‥‥千石のこと、俺は本気じゃなかったのに」
「付き合うの?」
「そうなるだろうよ」
「‥‥ねぇ、跡部」
「ああん?」

俺は訊きたかった。
どうして俺じゃなくてあいつを選ぶのかと。
‥‥あなたの愛は、俺だけのものじゃなかったのかと。

「‥‥いや、何でもないよ」

それができなかったのは、弱い俺の所為。
あなたが悪いんじゃない。

全ては、俺が泣けば済むはなし。





――ガタンゴトン‥。

「お客さん、終点ですよ」
「‥‥‥え?」

蛍光灯の光が眩しい。
目の前には駅員さん。それとも車掌さん?
とにかく俺は安堵した。そうか、今のは夢だったのか。

あなたが俺を見捨てるわけない。
そもそも俺が、あなたを愛するわけない。
愛されるのは俺の役目。

‥‥だって、そうでしょう?

『慈郎、』

目を瞑れば太陽のような笑顔で、あの人は笑う。
それに照らされる俺は果てしなく惨めなのか。‥‥いや、惨めだったのか。


つまり俺は何かを失ったのではなく、はじめから何も手にしちゃいなかったのだ。





それは夢か現か


(――それとも、現実こそが悪夢なのか)






‐Fin‐
101110


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