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□狂る狂人と
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「おはよう、侑士」

蛍光灯の光を背負って、向日は笑った。

これは希望か、それとも絶望か。
忍足は目の前の‥正確には上の光景が信じられずに頬を抓ってみたが、どうやら夢ではないらしい。

「‥‥あぁ岳人、生きとったんか」
「はぁ?何言ってんのおまえ」
「夢を‥見てたんや。酷くリアリティのある」
「どんな夢だよ?」
「さあ‥」

覚えとらん、そう言うと忍足は向日を抱きしめ、ちょうど抱き枕を抱えているような格好になった。
向日も男なので抱かれる側になったことに文句を言っていたけれど、それさえも愛しいと思っている自分は多分末期だ。

――このままずっと、この腕の中で眠ってくれればいいのに。
夢の中で忍足は、向日の亡骸を抱いて笑っていた。これでもう二度と誰にも彼を奪われずに済む。
そればかりかいちばん綺麗な状態の彼と、永遠に共に居られる、と――。

だからそう願う忍足は決して向日が生きていてくれたことが嬉しいのではなく、彼が生きてることで誰かに盗られることを危惧していたのだ。
それは、一種の愛とも言える。

(‥‥‥誰か、ねぇ)

無論、そんな相手がいないことを頭ではわかっているけれど。
それでも抱きしめる力を強めずにはいられない。彼が、欲しい。

「ちょ、侑士。苦しいって‥!」
「あ‥悪い。痛かったか?」
「ったく、いい加減俺離れしろよな!俺は侑士の抱き枕じゃねぇ」
「好きやからえぇの」

甘ったるい声で囁いて。
ちゅ、と音を立ててキスをすればくすぐったそうに笑う向日の扱い方は心得ている。

「侑士‥」

ねぇ、だから。

今すぐここで堕ちてしまえよ。
俺の腕の中で、永遠に。


「‥‥岳人なんか、死ねば良かったんや」

――ついでにその時は、歪んだ俺の愛も葬り去ってくれ。





狂る狂人と


(こんな形でしか愛せない俺を、おまえは許してくれるんやろか)






‐Fin‐
111011


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