過去log

□小さな狂気
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私は生まれながらにしてあの方の奴隷でした。騎士であり、お目付役であり、男娼であり、それでも、あぁ‥あの方を好いているのだから仕方ありません。そういう運命のもとに生まれた、それだけのこと‥‥。


あの方は偉大です。この世で唯一無二の王です。あの方は私に名前を付け、他の誰よりも私を可愛がって下さいました。
‥‥シャウアプフ。そう、そうです。それが私の名前です。無能で、浅はかで、役立つのプフでございます。あぁ、別に、笑ってくださって構いません。それでも、あの方が愛して下さったという事実に変わりはありませんから。


それとも‥‥自惚れだと、あなたは笑いますか?

‥‥えぇ、そうですね。いや、本当はわかっているのですよ。どれほど私が尽くそうとも、あの方は一度だって愛してるとは言って下さらなかった。そればかりか私を邪魔者扱いし、無情な刃を向けられたのは一度や二度の話ではありません。

そもそもあの方に、愛するという感情は存在するのでしょうか?
‥‥否、はい、答えは既に出ていましたね。

あの方は偉大な王でありますが、人間じゃあ、ない。

だからそんな綺麗な感情などあるわけがないのです。人間が蟻を踏み潰すように、あの方は人間を殺す。完全なる弱肉強食の世界。それが当たり前であり不変なのです。
まぁ、かくいう私もなんとやら、ですが‥‥。



‥‥少し、話がずれてしまいました。兎に角私はあの方の奴隷で、あの方は偉大なる王でした。その関係が、ずっと続くと思っていました。

‥‥えぇ、はい。やっと気付いてくれましたね。全ては過去の話だと。つまり、結論から言えば王は死にました。私が殺したのです。


理由、ですか?
そうですね‥‥私自身、はっきりとしたことはわからないのです。

私はあの方の全てが欲しかったけれど、あの方は私に何も望まなかった。‥‥意見の相違?まぁ、有り体に言えばそうなのでしょうね。しかし何も望まないというのは何も期待していないことと同じで、私の存在など初めからどうでもよかったんですよ。

私にはプフという名前があるけれど、やはりあの方からすればただの奴隷でしかない。いや、下手すれば奴隷以下の存在です。私は何者でもない。一片の価値もないのです。


あぁ、だけど‥‥あの方も私と同じくらい堕落してしまえば、愛してもらえる気がしました。

そして、その結果が死だった。

これであの方の目には誰も映らないし、あの方の全てを私のものにできる。
全ては愛ゆえに‥‥


‥‥ただ、それだけのこと。





小さな狂気






100917


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