◆短編
□偽りの無い君を愛してる
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相変わらず僕はナナコにベタ惚れだった。付き合い始めて二週間目、大分慣れたナナコの言葉に僕はときめくばかりで、それはもう大切に大切に扱ってきた。
洗顔の時はいつもよりも熱めに水を温めて(熱いと怒られた)、
ご飯は焼き魚をやめてレストランに食事しに行った(入れて貰えなかったので殺してしまった)。
ラキストには最高のご飯を作らせたし(ラキストはやつれていた)、
二人きりになりたいがためにオパチョはラキストに任せた(オパチョは泣いてラキストはさらにやつれた)。
ナナコが綺麗だと言ってくれた髪は一時間に一度は櫛で梳いている(ナルシストだと気持ち悪がられた)。
完璧としか言いようがない僕の愛に、ナナコは一向に答えてくれない。
「ハオ」
5分ぶりに聞いた彼女の声は酷く震えていた。
「どうしたんだい!」
血相を変えて振り向いた。ナナコの手にはぐちゃぐちゃになったぷるぷるの固体がのっている。
「私のプリン……、捨てたのハオでしょう……?」
「ぷりん? ……あぁ」
その黄色いやつね。ナナコに触られるなんて、僕はぷりんになりたいよ。
「あぁ、って!これ、私がザンチンさんに貰ったプリンなのに!」
「こんなものを贈ったのはザンチンだったのか」
「こんなもの!?」
「“食べないで下さい、ナナコ”なんて書いてるから、僕が安全なものかどうか調べただけだよ。一口食べてみたんだけど、酷い味だった」
思い出しただけで眉が寄る。甘ったるい味が口いっぱいに広がって、茶色の部分はちょっとマシだったけど、かえって甘味を引き立たせた。
「それはハオの好みでしょっ!? 食べないで、って書いたのに!! ハオなんか嫌いだよ!!!!」
「!!」
それは、平和に暮らしていた蟻の国に誰かがイタズラで水をかけた時、痛くないから大丈夫ですよと言われ安心していたのに死ぬ程痛い注射をされた時、クラスの大人しい子がいきなり刃物を振り回し始めた時、そんな時に感じる気持ちに似ていた。
ようするに、とてもとても驚いた。
「今……、何て……?」
「嫌いだよ、馬鹿ッ!」
わあああ、と去るナナコは相変わらず美しい。だけどそれどころじゃない。あれ、可笑しいな、目眩がしてきた。