◆記念

□笑顔を見たいと思った
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「……で、アンナが言ったんよ。そのくらいあんたがやりなさい、ってな。容赦ねぇだろ」

「あははおもしろいね」



まん太は目を凝らした。目の前で笑い声をあげた少女をガン見する。
面白いと言ったくせに無表情で、笑い声をあげたくせにその笑い声は棒読みだった。



(分からない……。何だって葉くんはあの無表情女と喋ってるんだああぁぁ!!)



毎日毎日この疑問が変わることは無い。まん太の胃はキリキリと痛んでいた。



「……おはよう葉くん」

「おー。おはようまん太。どうしたんだお前、オイラより遅いなんて珍しいな」

「あはは……(居たんだけどな)」

「小山田くんならさっきから居たけど?」

「!」

「うぇ? そりゃすまんかったな」



常に真顔を保ちつづける、通称無表情女。彼女はこの森羅学園ではなかなかの有名人だった。
表情どころか感情も無いのでは? と思わせる黒い瞳がまん太を捕らえる。



「い、いいよ別に」



まさか無表情女が自分を見ていたとは思わず、まん太はどもる。



「お前よく周り見てんなぁ」

「そう?」

「あぁ。まん太もそう思うだろ?」

「えっ?」



話を振られ、つい声が裏返る。できれば彼女とは関わりたくない、というのがまん太の本音だ。



「大丈夫かお前ぼーっとして? ナナコはよく周りを見てるよな、って言ったんよ」



あぁ、無表情女の本名はナナコというのか。まん太は「大丈夫。そうだね」と言い故意に笑顔を作った。



「オイラお前が近くに居たなんてこれっぽっちも気づかなかったぞ。まぁお前は小さいからな」

「そうなんだ……って葉くん!? これでも去年より身長伸びたんだよ!?」

「何ミリの世界だろ?」

「……何かぼく泣けてきた」

「ウェッヘッヘ。あ、そろそろSHRが始まるな。ナナコもいつまでも笑ってないで席ついとけよー」



ゆるく笑う葉の言葉に仰天し無表情女を見上げる。



(駄目だ、どう見ても真顔じゃないか。葉くんはこれを見て何で「笑ってる」なんて言ったんだ……)



悶々としながらもまん太は今日も席につく。
 
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