◆短編
□忘却
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ナナコは今追いかけられている。
「待つね」
小柄で真っ黒、それでいて手が真っ赤な男にそんなことを言われたが気にしていられない。
「聞こえないか」
「ぎゃあああ!追いかけて来ないでえええ!」
ナナコは思いきり叫びながら逃げた。
どうして?アタシはただこの美術館に飾られた自分の絵や他の人が描いた絵画を見に来ただけなのに!神様の馬鹿あああーーっ!!
「ちっ、チョロチョロうざいやつね」
「ぬわ、え、うほっ!?」
ちっとも女の子らしからぬ声をあげて、ナナコは転んだ。
男に攻撃された訳では無い。自分の足に引っ掛かってこけたのだ。
肝心な所でしでかす女、それがナナコだった。
「た、たんま……」
「問答無用ね。ちょこまかと逃げ回てなかなかやると思てたのに、自分で転ぶとか格好悪すぎよ」
「あ……あーーっ!?」
突然ナナコが声をあげたが、男の振り下ろされた手刀は止まらない。
「えーーっ!?普通止まるでしょおおっ!?」
ギリギリでナナコが横に転んで交わすと、先ほどまで自分の頭があった場所がえぐられていた。
サッと顔色が真っ青になる。
「チッ」
「たたたたたたんまだって!フェイタンでしょ?」
フェイタンと思わしき男は再び攻撃をしかけた。今度は足だ。飛んでかわす。しかし予想していたらしく次は首を狙われる。
「ちょっ、アタシだって、ナナコ!ナナコナナコナナコーーッ!」
触れるか触れないか、そんなギリギリで手は止まった。
「……ナナコ?」
「そ、そう。ほら、流星街でいつもドラム缶の中に篭ってたあのナナコだよ。久しぶりフェイタン」
「お前は“微笑み”の作者のナナコか?」
「……まぁ……」
スルーされたことが悲しくてテンションが下がる。フェイタン(多分)は細い目をさらに細くした。
「いい絵ね。団長が欲しがてたよ」
「えええっ!フェイタンが褒めるなんて!!てか団長て、もしかしてクロちゃん?」
疑問ばかりだ。
フェイタン(多分)の眉が寄る。