◆短編
□transform.
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訳が分からない。
まず最初にそう思った。
「あなたは……」
「こんにちはお姉さん」
にっこり微笑む金髪のイケメンに、普段の私なら間違いなくときめいていただろう。
だが状況が状況なだけに、とてもじゃないが胸は高鳴らない。むしろ恐怖で心臓がドキドキしている。
「挨拶くらい返してよ、一ヶ月前にこの銀行で働き始めたナナシダさん」
イケメンから急に出た自分の名前に心臓が跳ねた。何、この人……。
「まっ、仕方ないか。オレさー、お金が欲しいんだ。団長に頼まれたんだよね。ほんと人使い荒いよ」
「お、お金……?」
声は情けないくらいに震えていた。隣で息絶えている同僚を見たのに、泣き叫んだりパニックになったりしない私に自分でもびっくりしていた。
「そ。とりあえず今回は300万ジェニーでいいよ。断ったらどうなるか、分かるでしょ?」
目を閉じて気持ちを落ち着かせた。もう少ししたら昼休みは終わり、きっと誰かが来てくれる。今は時間稼ぎをするんだ。
「……申し訳ありませんが……」
首にチクリと痛みを感じ、私の視界は真っ暗になった。
***
面白いヤツだと思った。
隣で同僚が殺されたにも関わらず、ヒステリックを起こさずにただオレを見て、しかもお願いを断ろうとしたから。だからほんのちょっと興味が沸いただけ。
「1000万ジェニーでゴざいマす」
ロボットと化した彼女は虚ろな瞳で現金を差し出す。最初から操作しようと思っていた。一人目の受付嬢は媚びを売ってきてうざかったから殺しちゃったけど。
お金は余分に貰って、彼女を操作して自分は去る。彼女が意識を取り戻した時にどんな反応をするのか気になったが、さっさと去ることにした。
こういうのは見ないからこそ面白いもの。実際見てみたらちっとも面白くなかった、なんてことは少なくないからね。人が奨めてきた映画やドラマと一緒で、続きは見るよりも想像した方が楽しいものだとオレは思っている。