◆短編
□知らなければよかった*
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「クロロってさ、時々凄く冷めてるよね」
「急にどうしたの?」
「時々感じる視線はすごく冷酷に思える事があるよ」
「そうかな」
クロロがグラスを傾けるとカランと音が鳴った。
「ナナコは考えすぎなんだよ。しかもマイナス思考だし。もっと気楽に物事を捉えたらいいんじゃないかな」
「クロロの視線が気のせいだって言いたいの?」
「そういうんじゃ無くて」
「じゃあ何?私が勝手に被害妄想してるだけだって言いたいの?」
「ナナコ」
「私はクロロにとって邪魔になったんだ。新しい女でも出来たの?」
「ナナコ、」
「呼ばないでよ!他の女にもそうやって甘い声でっ……」
ガタンと机を叩けば、賑わっていた店内が一瞬だけ静かになった気がした。クロロは困ったように笑って、正直聞き取りづらいくらい小さな声で話をした。
「俺は最初に、彼女が居るけどそれでもいいなら付き合おう、って言ったよね」
「…………」
「ナナコは了承したよね?俺は彼女よりもナナコの方が好きだけど、彼女の気持ちを裏切る訳にはいかないんだ」
「………………」
ああ、なんて最低な男。以前の私なら間違いなく別れていた。まず付き合う段階までいってなかっただろう。目の前の男は“最低”の代名詞なのに、それでも惚れた弱みなのか“優しい男”だなんて思ってしまう。
「どうする?嫌なら別れたらいいんだ」
「……クロロ、は。私と別れても平気なの?」
「俺はナナコが大好きだから別れたくない。でもナナコの意見を尊重したいんだ」
ほらね、やっぱりクロロは“優しい男”だ。
「ごめんクロロ。私どうかしてた。愛してる」
「全然。オレも愛してるよ。さぁナナコ、帰ろうか」
「うん」
会計はクロロがしてくれて、二人で私の家に向かった。
いつもそう。
こうしてすれ違いがあれば、出来た穴を埋めるように、私の家で愛し合う。今日も例外では無い。
情事中は愛されていると感じても、絶頂を迎えた後は冷静な考えが頭をちらつく。
私はクロロの何を知っているのだろう。何も知らない。白いバンダナの下も、家も、普段何してるのかも。
イッたばかりでぼうっとする頭。それでも私は考えていた。
「何考えてるの?」
私の考えを見透かして打ち消すように、クロロが私の乳房に噛み付く。
「ぁ……ん、クロロのこと」
「ちょっと悔しいな」
「んぅ……な、にが?」
「考える余裕がある事が悔しい。何も考えられなくしてやるよ」
「ゃ、うぁ……!」
乳頭を口に含み舌で転がされ、クロロの右手は私の最も敏感な部分にある。
白くぼやけ始めた頭の中に、声が響いた。
「知能の低い女だ。お前は何処まで堕ちるんだろうな」
それは果たして自分の心の声だったのか、クロロの声だったのか。真っ白に染まりきった頭では、到底答えを出すことは不可能だった。
知らなければよかった
(あなたの味なんて、)
管理人「初短編から裏に突っ走る管理人をお許し下さい」
2010.12/30