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「いっ…!!」
「何度壁に穴をあけるなと言ったらわかるんだエー!」
「仕方ないだろオヤジ!」
「何も仕方なくないわバカモンがぁ!」
「いってぇ!!」
たわいない親子喧嘩をビーは遠くで笑いながら眺めていた。
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「くそっ…馬鹿力で殴りやがってオヤジの馬鹿野郎…」
雷影に殴られた頭をさすりながらエーは仕事場の屋上へと続くドアを開けた。
空は赤く染まっている。
下の方では業務を終えた忍達が大きな声でどこに飲みに行くかの相談をしていた。
まだ業務が残っているエーはしばらく関わっていない会話である。
「大丈夫か?ブラザー」
「ああ、大丈夫だ。…なぁビー」
「なんだブラザー」
「入ってきた蠅を叩こうとして力加減を間違えて壁をぶち壊しちまったのはそんなに悪いことか?」
深いため息をつきながら鉄柵に腕を組んで乗せるエーの目はどこか遠いところを見ていた。
ビーはそんなエーに苦笑いしながら、少し考えてから答えた。
「うーん…。怒ってるのは壁を壊すほど力いっぱい殴ったのに結局蠅を潰せてないからじゃないのか?」
「なるほど」
かなり的外れな答えにそれでも素直に肯定してしまうのは、雷影に殴られた衝撃でまだ頭が混乱しているのか、エーの元からの性格なのかはわからない。
どっちでもいいことだとビーは鉄柵の上に飛び乗った。
するとエーが自分より高い位置にいるビーを見上げて言った。
「危ないぞビー」
しかしその声にあまり心配のようなものは含まれていない。
とりあえず言っておくかという、軽い感じのものだった。
そもそも忍なのだから高いところから落ちて死ぬなんてそうそうあることではない。
もっと高いところから下りることもある。
鉄柵から落ちるというよりも下りる方に近いことになるだろう。
だからこそあまり心配を含まない声色でエーは言ったのだ。
その言葉にビーはにっと笑ってから民家に反射する夕日を見てどこか懐かしむような声で言った。
「平気平気。…綺麗な夕日だなブラザー」
「…そうだな」
「夕日が綺麗なのはいいが、お前はやることがあるんじゃないのか?エー」
「うおっ!オヤジ!?」
「お前が壊した壁を部下に修理させるんじゃないバカモンがぁ!!」
「いってぇ!!」
本日三度目の拳骨は前の二回より数段強く、もはや頭より首が痛くなってきたエーは、首をさすりながらぶつぶつと小声で文句を言いつつ屋上のドアを開けて戻って行った。
その姿を見ていた雷影がぽつりと「もう一回後で拳骨だな」と言うと、ビー後ろで幸せそうに笑った。
にこにこと笑っているビーとは正反対に、雷影は眉間に皺を寄せて口をへの字に曲げていた。
どうやらまだエーのしたことに怒りが収まっていないらしい。
「そんなに怒らなくても…」
「あいつがこれで何回壁を壊したと思ってる…四回だぞ?四回!」
「ブラザーらしいっちゃらしいな!」
「バカモン」
「あいたっ!」
拳骨を喰らったことでぐらりと体が揺れるが、後ろに倒れる前に雷影がビーのマフラーを掴んで引っ張り上げた。
その時にマフラーが締まり、ビーが「ぐえっ」と情けない声を出すが雷影は気にしないでそのままビーを地面におろした。
「あいつよりお前の方が手がかかるわ」
「へへ」
本日五度目の拳骨を喰らった頭はたんこぶだらけなってしまっていた。