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「よお」
「ああ」


ダルイとシーの朝の会話はこれで終わる。





****





「……」
「起きたかよ」
「…ダルイ?」



目が覚めて最初に視界に入ったのは自分の部屋ではない天井だった。

そして次にダルイの声。

そして後から鼻を刺激する薬品の匂い。


そうか、ここは医務室だ。

シーは自分がいる場所がどこか理解したと同時に疑問に苛まされた。



「何でオレはここに?」
「お前、敵との交戦中にぶっ倒れただろ」
「…っそうだ!どうなったんだ!?」
「…ビーさんがやったよ。すげえよあの人、八尾の衣も出さずに三十人ぐらいいた敵を秒殺してた」
「そう、か」
「お前は過労だってよ。確かにぶっ倒れるぐらいの業務は毎日こなしてたからな」


それはお前も同じじゃないのか?

シーはそれを口にしなかった。
情けなかった。
過労なんかで戦闘中に倒れるなんて、雷影の側近としてあるまじきことだ。

自分よりも忙しい雷影は疲れなど見せないで毎日仕事をしているのに。



「オレをここに運んだのは?」
「オレ」
「…すまん」
「お前さ、何でもかんでも深く考えんなよ」
「別にそんなことは」
「どーせ今も『オレ情けねー』とか思ってんだろ?」
「っ!」


ダルイに図星をつかれて思わず顔に出てしまう。

きっと今酷い顔をしている。



「オレだってよ、倒れたことあったぜ」
「お前がか」
「ああ。ボスの後ろ歩いてていきなりな」
「…本当か」
「ボスもすげー焦ってたよ。オレの胸倉掴んでめっちゃ揺さぶってた。さすがに死ぬかと思ったけどな」
「ははっ」



あの冷静な雷影が焦りながらダルイを揺さぶっているところを思い浮かべてシーは思わず噴き出した。

ダルイも懐かしむように苦笑いをして頭をかいた。



「…しかしな」
「あ?」
「戦闘中に倒れるなんて、忍として失格だ」
「…だからよ、そう重く考えんなよ。オモイかお前」
「実際そうだろう」


また情けない顔をしたシーを見て、ダルイはため息をついてから珍しく口を忙しく動かした。


「雲隠れのために働いてんだ、別にぶっ倒れたっていいだろ。むしろ『オレはぶっ倒れるまで働きました』って言えばいいじゃねえか。お前が戦闘中に倒れるぐらいだ、相当疲れてたんだろ」
「…お前は優しいな」
「ありがとよ。じゃあ、だるいけどオレは仕事に戻るわ」


もう一度礼を言ってシーはベッドの中にもぐりこんだ。

もう結構な時間が経っているにも関わらず、まだ体が重い。


シーがうとうととまどろんでいる時、医務室のドアを開ける音で何かを思い出したのか、ダルイが振り向いた。


「そうだ、お前」
「…何だ?」
「今日から三日、ここに来なくていいってボスからの命令だ」
「…」
「じゃあな」



それは休めということだった。



「…本当に部下に甘いな雷影様は…」


そしてダルイも。

自分を責めない里の皆も。

優しすぎる。



「…」


ちゃんと三日休もう。
そして仕事の配分を考えよう。

もうこんなことが起きないように。

そして仕事が始まったらきっちりやろう。
もっと栄養もとらなければ。



考えている内に涙が出てきたが、シーは笑っていた。





「…この里に生まれてよかった…」




今日、心の底からそう思えた。




 
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